第9章 MARIA
ライフストリームが凝縮されたようなオメガの体内は、喜びも悲しみも増幅されて辺りに光と影が渦巻いている。それは言うならば混沌。
「カオス……」
シャロンが空を見渡すと、ヴィンセントがカオスの姿でオメガの前を飛行していた。
ヴィンセントの無事が確認できてほっとする一方で、もしかすると、彼に殺される事になるのかもしれないという事実を認識して少し胸がチクリと痛む。
しかし、彼女は助けてもらおうなどとは思わなかった。
オメガを止め、星を救ってほしい。
彼には生きて、幸せになってほしい。たとえそこに自分がいなくとも。
彼女の覚悟と共にオメガは涙を流した。
周辺の魔晄炉はクラウド達によって破壊され、オメガへのライフストリームの供給は徐々に緩やかになっていく。
これでオメガが元に戻ってくれるなら簡単なのだが、一度生まれたオメガは悪意なくその星の全ての命を回収し、星から飛び立つその時まで消えはしない。
ヴィンセントは、仲間達が見守る中、オメガを壊すためハイウェポンに突撃する。
障壁を突破しオメガ内部へ侵入するが、異物に対する防御反応が強く、機械のような魔物が次々彼を襲っていた。
シャロンの気配に気をつけながらオメガの脳周辺を捜索するが、彼女は見当たらなかった。一度外へ出てみる。先程は涙を流したように見えていた目には何も流れてはいなかった。
かわりに、ヴィンセントが内部に侵入する際に貫いた頭の上に別の空間が出来上がっているのを発見し、そこへ行ってみる。
しかし中で待っていたのは、ヴァイスだった。
宝条は消滅したらしい。そこにいたのは、ディープグラウンドのトップに君臨していたヴァイス本人。
これまでの戦いとは比べ物にならない程の激しい戦いが繰り広げられる。
ヴァイスは他のツヴィエートより群を抜いて強い。本人と戦ってみて、その体を乗っ取っていた宝条は彼を活かしきれていなかったということがわかる。しかしヴィンセントも、カオスの力を完全にコントロールしている。
ヴィンセントの人生でも最も過酷な戦いを、彼は制した。
ところが、時間を食ったためか、オメガがエネルギーの収集を終え羽を広げていた。
ウェポンが飛び立つのをリーブ達が見守る。命の狩り取りは終わっていない。そして、ライフストリームの全てが吸収されたわけでもなく、星にはわずかにエネルギーが残っているようだった。
