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FFVII いばらの涙 綺麗譚

第9章 MARIA


ルクレツィアの残した断片はいつも、悲しい声を上げていた。
——

「あの子はどこなの! 返して!」

宝条の体を揺さぶり懇願するルクレツィアを宝条は罵倒する。

「そんな事より、そっちの実験はどうなんだ?」
「っ……! 知らない! 知らない! 知らない!」

虐げるように強調される実験という言葉にルクレツィアは逃げるようにして部屋を出て行く。
ヴィンセントを助けようと試行錯誤しているだけなのに、実験と揶揄され、根っからの科学者だと馬鹿にされ、子供を取り上げられ、肉体はジェノバ因子によって蝕まれる。
ルクレツィアはもう限界だった。
それでも宝条がラボを訪れる度愛すべき子供の身を案じ、彼に食ってかかる。

「あの子は無事なの!? ねぇ、返して!!」

そして宝条は彼女を救う事もせず何度も罵倒する。
実験、何と言われてもいい。ただ彼に生きていてほしい。
自分がもう長く保たない事を悟ったルクレツィアは、昔、グリモア博士と共に見つけた、カオスの生まれる場所で入手した因子をヴィンセントに埋め込んだ。
結果は、成功。
しかし、彼はカオスを制御出来なかった。焦ったルクレツィアはグリモアと見つけたエンシェントマテリアを彼に組み込む。


「はっ、実験は上手くいっているのか?」
「宝条……! あの子は……セフィロスはどうしているの?」

宝条は安定した様子のポッドの中を見て顔を歪ませる。ルクレツィアの言葉が耳に入らないように少しの間沈黙した。

「ねえ! 会わせてよ!!」

しかしルクレツィアの懇願も虚しく、宝条は笑顔でこう答えた。

「ククッ、死んでもなお惚れた女の役に立てるのだ、その男も幸せだろうな」

その時、ルクレツィアの中の何かが壊れた。
自分がなくなってしまう前に、せめていつかヴィンセントの役に立つようにと、自分のデータを断片化してネットワークにばら撒いた。



——ルクレツィアの祠。
それはカオスが生まれる場所。オメガ・カオス理論立証のためグリモア博士と共にたどり着いた地。
ルクレツィアの結晶体はいつもそこに居て、うわ言のように謝罪の言葉を繰り返していた。

「セフィロス……」

死んでしまったと聞かされた後でも時々思い出す。
一度も抱いてあげられず、母親だと言うことも出来ず、ひと目会うことすら許されなかった。
忘れる事など許されない。途方もない年月を、懺悔し続ける。
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