第9章 MARIA
セフィロスのその言葉は、シャロンに向けられたものだ。
彼が見てきた女性の記憶とリンクするようだった。
彼もまた不器用な男だ。他の何でも卒なくこなすのに、人を愛する事だけは不得手なのである。
「俺はな、自分の弱さが憎かった。自分を取り巻く環境を打開することもできない自分が。あの時も、俺はお前を生かす事で手一杯だった。だが十分だと思わないか? お陰で今こうしてお前と話せている」
長い睫毛を靡かせ、セフィロスは片方の口角を上げて笑ってみせた。
少し意地悪げで、それでも闇を感じさせない綺麗な笑みだった。
「セフィロスの子供時代の話ね。あの時はありがとう。助けに行ったつもりが助けられる事になってしまって、私としては情けない話だけれど」
「お前はそれでいい。お前が誰かに守られる役目を負えば、それは誰かの原動力となる。生きてさえいてくれればそれでいい。生きていれば、いつかは幸せに暮らす事もできるだろう」
シャロンの瞳に涙が溜まっていく。セフィロスの気持ちが心から嬉しかった。初めて彼が心を見せてくれた気がした。
「私に……生きて幸せになれと言ってくれるの?」
「ああ、そうだな。初めてあの女に共感した。哀れな女だと思っていたが、俺も結局、似たもの同士だったということか」
「ルクレツィアの事、よね」
「そうだ。星へ還る前に、一度会ってみようと思うが……どう思うだろうな? あの女も、生きているのか思念だけの存在なのかわからないものだが」
シャロンは指で涙を拭って笑顔を作った。
セフィロスがルクレツィアに会うと言い出すようになるなど、ついこの間までは露ほども思っていなかった。
誰かが繋げたネットワークのお陰で、セフィロスの心は救われようとしている。
「喜ぶに決まってる」
「あの男と一緒になっていれば、俺が産まれる事も無かった。産まなければよかったと思っているかもしれないな」
「そんなわけない。大丈夫よ、彼女絶対に喜ぶわ。だって、お母さんだから」
何の根拠にもなっていないが、力強く語るシャロンのはつらつとした表情はセフィロスの不安を晴らす事に少しは役立ったようだった。
「フ……だといいがな」
小さなため息からどこか人間味を感じさせる。今のセフィロスはジェノバの面影など感じさせない。
シャロンには今の彼が少年のままのセフィロスに見えた。
