第9章 MARIA
セフィロスはシャロンの側へ行くと、その姿を切なく見下ろした。
細い腕、華奢な肩。いくら不死身の身体だとしても、彼女はセフィロスにとっては小さくか弱い女性に見える。
「俺は、お前を傷付けずにはいられない」
冷たい視線を浴びせれば、シャロンは眉を下げ大きな瞳でセフィロスを見つめる。無意識なのだろうが、彼女はしばしばその哀しげな表情を彼の前で見せていた。
「その顔はやめろ……お前に触れたくなる」
「セフィロス、なんだか雰囲気が変わったわね。何かあった?」
そう問われると、セフィロスは彼女から視線を外し前を向いた。
「この頃、神羅の情報がひとまとまりに収集されているだろう。見る必要のなかった断片も、一つの記憶として完成されるようになれば嫌でも視界に入る」
「何を見たの?」
「……色々とな。俺も、思い出した事があった」
「何?」
セフィロスは、静かに首を振る。
やけに秘密主義的な彼にシャロンは拗ねたように口を尖らせてみせた。
本当は彼女にもわかっていた。このところ、ルクレツィアの断片が結合し新たな記憶が星に記録されていっているのを彼女も見ていたからだ。
「いいわ、話してくれるまで待ってる」
「いや……お前はもう、元の場所へ帰れ」
「え……?」
セフィロスとシャロンはこれまで数年の間をこのように過ごしてきた。何のためにそうしているのか、いつまでそうするのか、どうすればここから出られるのか何もわからないまま時だけが経っていた。
初めは彼女にとってはセフィロスを一人にしないためであったし、セフィロスにとっては復讐の時を窺うためであった。
しかし時が経つにつれ、何かが変わっていった。
「言ったろう? お前を愛していると」
「ど、どうしたの、セフィロス」
「お前が生きる世界は、あそこにしかない。お前は……生きろ」
見下ろす眼差しが、いつになく熱かった。
いつもの冗談を言うセフィロスとは全く違う。
これは真剣な話なのだと、シャロンはすぐに理解した。
「ある女の記憶を見た。不器用な女だった。もっと器用であったなら、幸せにもなれたろう。だがその女は最後まで悲運を辿った。多くの愛を失って、最後の希望にかけたんだろう。せめて、最後に愛した者には……」
そこでセフィロスが言葉に区切りを付ける。
「生きていてほしい、とな」