第8章 星の砂
地表に残されたシェルクが巨大な構造物を見上げ戦慄していた。
「オメガが生まれた? カオスはそれに引きずられ、対のものとして覚醒してしまった……ようですね。でも、あれでは……」
カオスの制御が出来ないヴィンセントに、エンシェントマテリアを届けるため、シェルクはSNDを行うことにした。
ただの人助けというのはまだ気恥ずかしさがあるのか、ルクレツィアの願いまでも取り込んでしまったのが運の尽きと自分に言い聞かせながら、オメガの中へ潜行する。
「見つけた」
さまざまな人の命を取り込んだオメガの内部は、純も不純も混在していた。解き放たれる事を望む死の概念がシェルクを拒むように進路を妨害する。
あと少しで手が届くという時、ルクレツィアの思念がシェルクの手にマテリアを持たせる。
シェルクはそのままオメガを突き破り、カオスの身体目掛けて飛び立ち、エンシェントマテリアを胸に埋め込んだ。
暴走するカオスに優しい声が届く。
「これを……受け取って」
ルクレツィアの思念が、カオスの中のヴィンセントを呼び起こさせる。それと同時に、ルクレツィアの想いが彼の中へ流れ込んでいった。
頭の中に、ルクレツィアとよく昼休憩をした今は無き丘の光景が映る。俯くヴィンセントに、ルクレツィアが声をかけた。
「私はね、あなたに、生きていてほしかったんだ……。自分の気持ちに気づいてしまったから」
ヴィンセントの反応はない。聞こえているのかもわからないが、おそらく聞こえているだろう。彼はいつもそうやって、相手の話を傾聴していたから。
「……まあ、どうでもいいんですけど。ふふ……。でも、こんなんじゃ、違うよね? ごめんね。私、失敗ばっかだね。なんか、いっぱい苦しめちゃったね。あ〜あ、なにやってんだか……だよね」
無理に明るく振る舞う彼女が、何度も聞いた謝罪の言葉を口にし、最後に伝えたかった想いを残した。
「あなたが生きていて、よかった……」
その願いを聞き入れるように、ヴィンセントは再びカオスの制御に成功する。
ヴィンセントは、エンシェントマテリアを届けてくれたシェルクを救出し、地上へ避難させた。
「遅いですよ」
「すまなかったな」
「まあ……どうでもいいんですけど」
脱力しているが、軽口を叩けるくらいの元気は残っているようだった。