第8章 星の砂
ヴィンセントが立ち上がる。傍観が罪だと言う事を痛い程知っているから。
「まだ、だ……」
「生き急ぐか」
怒りの声を滲ませ立ち上がるヴィンセントに宝条はヴァイスの肉体の精度を確かめるためと言い武器を構えた。
怒りに狂ったヴィンセントはカオスの暴走を許し宝条に襲いかかるが、呆気なく弾き飛ばされてしまう。
「力押しではどうにもならんよ」
銃撃が効かないヴァイスの肉体の中で余裕すら見せる宝条にしかしヴィンセントは力でしか勝負する術がなかった。
ライフストリームから繋がる魔晄ポッドでシェルクがカオスの気配を感じ取ったのか、ヴィンセントにルクレツィアの電影を見せる。
「だめ! 力だけの戦いなら、終わりの名を持つあれには敵わない! 心を取り戻して! カオスに使われるのではなく、カオスを使うの! あなたは人として……」
ルクレツィアの電影が宝条によって妨害される。
「なんだ? あの女を騙る物好きでもいるのか? まあいい、ここで終わりにしよう。ヴィンセント・ヴァレンタイン」
ヴァイスの肉体が斬撃の波動でヴィンセントを攻撃するが、ヴィンセントはその波動を打ち消した。
ヴァイスの肉体に埋め込まれたエンシェントマテリアの影響を逆手に取り、ヴィンセントは人の身のままカオスの鎮圧に成功する。
「ふん、しかし所詮はカオスの力を引き出しただけのこと。オメガを制御する私の敵ではないわ」
「宝条、ごたくはたくさんだ。腐れ切った縁……これで終わりにしてやろう」
「い、いい気になるな!!」
宝条は怒りを露にし、ヴィンセントに襲いかかる。が、冷静さを欠いた攻撃は威力とは裏腹に隙もある。怒りとは諸刃の剣。オメガを宿し滅ぼされるはずのなかった肉体にヴィンセントの攻撃が突き刺さる。
「ば、ばかな! オメガの力が! なぜ?!」
無敵の状態が失われたのは、先程宝条が殺したネロの闇がヴァイスに取り憑き清浄さが失われたことと、ヴァイスの中にわずかに残っていたヴァイス自身の意思がオメガを拒んだからだった。