第8章 星の砂
宝条はサプライズが成功した事でひどく上機嫌のようだった。
「いやいやいや、改めてこんばんは。3年ぶりかね? ヴィンセント・ヴァレンタイン」
そして宝条は自身の輝かしい天才的な頭脳と思考の軌跡を語った。
宝条は元々ルクレツィアの理論を信じてはいなかったらしい。しかし3年前、ヴィンセントが宝条の知らない魔獣、カオスに変身した時、その理論が正しかったのだと気付いた。そして、ならば自分がオメガになることも可能なのではないかと考えた。
しかしオメガをその身に宿すには強靭な肉体が必要だった。
ヴィンセントは宝条の改造によってカオスを宿す土台が出来ていたらしい。
残酷な因果関係がそこにあった。
宝条は最初、自身の体にジェノバを埋め込み肉体を強化しようと試みたが、それは失敗に終わった。まさか思考まで食われ、ヴィンセント達に倒されるとは思ってもみなかった。
しかし、その状況を乗り越えられなかった時の保険として自身の断片をネットワークにばら撒いていたため次なる肉体を探す事ができた。
そこで目をつけたのがディープグラウンド。おそらく世界で最も強い生き物のいる場所。そして中でも最も強靭な肉体を持つヴァイスをみつけた。
だがヴァイスは既に死んでいた。悲しみに暮れるネロに悪魔の囁きを浴びせる。
すると彼は兄を蘇らせたい一心で宝条に協力した。ヴァイスの頭が宝条に乗っ取られるとも知らずに。
そして宝条はルクレツィアの理論の続きを行った。
汚れた魔晄の使用によって宿ったカオス。ならば清浄なる流れを使えばオメガとなる。
だから清き人間だけを選別し、純粋な魔晄を作り出した。そしてオメガはヴァイスの身に宿った。
宝条は両手を広げ、激しい自己陶酔をはじめる。
「天才だ! 私は、人類史上最高の天才!」
永遠に続きそうな語りにヴィンセントは呆れたように呟く。
「宝条、貴様の声は聞き飽きた」
銃を構え宝条に攻撃をしかけるが、宝条はヴァイスの肉体を使いこなし彼に反撃を食らわせる。まともに攻撃を受け地に伏すヴィンセントを宝条は冷たく見下した。
「無様だな、ヴィンセント・ヴァレンタイン。ははははは! 腐れ縁だ、貴様はそこで這いつくばりながら、星の終わりと私の門出を見ているがいい」
最後の仕上げと宝条がライフストリームに手を翳す。