第8章 星の砂
ようやくネロを撃破したと思えた時、ネロは傷だらけになった身体を無理矢理起こし、うわごとのように「兄さん」と呟きながら戦場を離脱して行った。
ヴィンセントがその後を追うと、すぐそこは先程ヴァイスがいた中心部だった。
「兄さん……やっと……やっと……」
ネロの後ろ姿から視界をずらして見ると、死んでいたはずのヴァイスが堂々と足を踏みしめて立ち上がっていた。ヴァイスはにやりと口角を上げると狂気めいた笑い声を上げる。ネロは魅入られたようにヴァイスの側へ行き、やっと会えたと彼を抱擁しようと手を伸ばす。
が、ヴァイスは満身創痍のネロの身体に自身の腕を突き刺しその身体を放った。
「お前は、用済みだ」
自身の強靭な肉体に確かな手応えを感じたのか、再び笑い声を上げるとヴァイスは魔晄の穴を飛び越えヴィンセントの側までやって来る。
ヴィンセントがそれを戦闘開始の合図ととらえ銃撃を浴びせるが、ヴァイスは鋼のような肉体でその弾丸を弾き飛ばす。
「無駄だ。この身はオメガと同化を果たした。貴様の身に、カオスがあるようにな」
謎めいた存在であったヴァイスがあまりに流暢に語り出すので、ヴィンセントはその様子をうかがうように話を聞くことにした。
「もっとも、所詮カオスはオメガを生み出すための駒でしかない。その点、この身に宿したオメガは、星の海をも越えるハイウェポン……。既に、この身を滅ぼせるものなど、存在しない」
他者を乏め自分を持ち上げる語り方がやけに鼻に着く。
ヴァイスは自分に酔ったように、オメガと一体となったその身を動かし、自己陶酔が終わると再びヴィンセントへ視線を向けた。
「ふっ、しかし、ヴィンセント・ヴァレンタイン。お前とは、つくづく腐れ縁だな」
「なに?」
「ククッ、分からんか? 私は3年前、セフィロスを追いながら世界中のネットワークに自らの断片……、そう、私の頭脳……知識と思考のデータ、それをばら撒いた」
ヴィンセントは何かに勘づくと、背中に鳥肌が立つような寒気がした。
ヴァイスは、その断片がメテオ災害をも越えて生き続け、再び復活したネットワークと共に再構築されたと言う。
「ふっ、これは、新たなリユニオンだと思わんかね?」
「まさか……お前は……」
「かっ、はははははははは! そうだ! 私だ! 宝条だよ! はははははははは!」
ヴァイスの身に宝条の電影が重なる。
