第8章 星の砂
ヴィンセントが襲い掛かる守備部隊を撃破しつつ奥へ進むと、炉を止めたユフィと合流し、ついに零番魔晄炉の最深部、目的地に辿り着く。
重く閉ざされた扉が開くと、魔晄炉の中心で待っていたのは、ヴァイスと思しき男の遺体だった。
ヴィンセントとユフィの二人は想定外の光景に立ち止まる。
すると、背後にネロが姿を現した。
「もうすぐ、目覚めますよ……」
「めざめる?」
「はい、その身にカオスを宿した、アナタと同じように」
「へ?」
戸惑うユフィとは裏腹に、ヴィンセントは納得したように頷いた。
「なるほどな」
「な!? ちょ、ちょっと! 全然わかんないんですけど?!」
「ああ……やっと、兄さんが目覚める。あの男に話を聞いてからここまで、とても永く感じました」
「聞いた?」
誰に、と問いかけるも、ネロは黙ってヴァイスを見つめ、彼のもたれ掛かる中心から魔晄が溢れ出す。
ユフィとヴィンセントが武器を構え、臨戦態勢に入ると
「兄さんに触るな!!」
ネロが感情を爆発させ辺り一面を闇で覆い尽くした。
闇に飲み込まれるユフィ。亡霊のようなものがどんどんと近付いていき、彼女は叫び声を上げる。その声が知らせとなったのか、居場所を突き止めたヴィンセントがユフィを抱え闇から脱出する。
ヴィンセントがユフィを壁際に降ろし、身を案ずるが、腰を抜かしてしまっていた。
「あ、あ、あ、あれは……?」
「死……ですかね。ボクの闇はどんなものでも取り込む。そしてそれを自由に取り出すこともできます。ただ、闇に近いものほどよく残る。死の概念とかね。このごろたくさん取り込んだもので」
「ひ、ひどい……」
怯えた様子で震えるユフィを庇うように背に隠すと、ヴィンセントはネロに対峙した。
「そうでしたね、アナタは取り込めなかった。……兄さんの邪魔はさせない」
闇を展開するだけではヴィンセントを阻止出来ないとわかったので、ネロは異空間を展開し、ヴィンセントとの戦場を作り出した。
淀みといえばそうとも形容できそうな、命が何もない死の星のような空間で、ヴィンセントはネロとの一騎討ちを始めた。
蜘蛛のような形態に変化したネロはもはや魔物ともいえそうな術を使いヴィンセントを翻弄する。が、多くの経験を持つヴィンセントにとって未知のものではなかった。
ただ、ネロの執念は彼の思う以上に強いものだった。
