第6章 Cube
数年の時を会社員として過ごし、ある種君の事には折り合いを付けられていたと思う。時間が感傷を思い出に変えてくれていた頃、私はルクレツィアに恋心を抱いていた。
彼女は私の好意に気付いていたと思う。だが、想いを寄せれば寄せるほど、彼女は私と距離を置くようになった。その理由は、私の親父だ。実験中の事故が原因で亡くなったと聞いていたが、その研究パートナーが、ルクレツィアだったのだそうだ。
何度も自分のせいだと言って謝っていたよ。
私は、真実がどうあれ関係ないと思った。事故を理由に私を遠ざけるルクレツィアに焦りを感じていたと思う。
だが彼女が私を遠ざけていた理由は、それだけではなかったらしい。女性というのは勘が鋭いな。彼女は、私の心の中に大きな穴がある事を、私が気付くよりも早く感づいていたらしい。
その大きな穴とは、……君のことだ。君の存在は、私にとって何よりも特別なものなのだ。
思い出の中にある淡い恋を美化しているだけではない。私は、君を守れなかった事をいつまでも後悔し続けていた。
大切なものができた時、今度こそ自分の手で守る力を得たくて強くなった。君は昔から私の原動力だったよ。
そんな君が目の前に現れて、囚われているのをただ黙って見ていられるわけがなかった。贖罪のつもりだった。今度こそ君に自由をと。いや……それは建前だ。
私は、君と生きたかった。
——…
ヴィンセントが思い出を語り聞かせているうちに、作戦決行の時間となっていた。
「シャロン。君が目を覚ます時、この星が平穏であるように……」
正直なところ、世界を救ったとして、彼女が星に奪われたままでいるのなら彼にとって勝利とは言い難い。ただ彼女が目覚める方法がわからない以上、このまま世界の崩壊と共に消滅するなどというあまりにも無情な結果は避けなければならない。
「ではそろそろ……行ってくるよ」
頬を一撫でし、ヴィンセントは操舵室へ向かう。