第5章 Storm
ルクレツィアの手にライフストリームが集まり、宇宙へと飛び去っていく。
「これは、この星で生命が循環するように、宇宙でも同じように循環するというシステムのひとつなのかもしれない。わかることは、オメガが生まれればこの星に生きるすべての命が終わること。オメガが飛び去った後、ここは死の世界へと変わること」
背景からルクレツィアの祠の映像が消え、ヴィンセントにここが神羅屋敷の資料室であったということを思い出させる。
ルクレツィアはまるで案内人のように続ける。
「詳しい資料はここに残します。それで……あなたがこれからどうするのかわからないけど……。ただ……」
彼女の表情が崩れ、俯いていく。
「ごめんなさい……」
そう言い残すと、ルクレツィアのホログラムは消えていき、ヴィンセントの手に光るマテリアも自壊し消滅した。
彼女の残した映像を見終えると、ヴィンセントは我にかえり彼女の名前を呟いた。
そして傍にあるディスクを手に取る。
これまでこの部屋には何人か足を踏み入れただろう形跡があったが、ヴィンセントを認識し、本人にしか発見できないギミックが施されていたのだろう。そこで今まですっかりこの場所へ戻っていなかった事を思い出す。
少しの間でも、罪を忘れ生の喜びに身を任せて過ごした自分に少しの後ろめたさを感じた。
与えられる罰ならいくらでも受けようと思っていた。甘受するのが当然だと思っていた。償い、苦しみ続けるつもりだった。だが、彼は出会ってしまったのだ。
「彼女は……」
ヴィンセントは独り言をつぶやき、シャロンと出会った部屋へ向かった。
相変わらずカビのような湿気を含んだ臭いのする廊下を進むと、奥まった部屋に彼女の幽閉されていた場所がある。
朽ちて外れかけた扉を覗くが、あの頃の彼女を思い出すのはあまり良い気分ではなかったのですぐに視線を外した。しかし、目を伏せる一瞬前、かつて彼女が生活していた場所にライフストリームのような青緑色の光がかかっているように見えてもう一度覗き込む。
「幻覚……か」
むしろそうであって欲しかった。経験則だが、ライフストリームの幻影は星へ還った人に所縁のある場所でよく見られていたから。
彼は気持ちを切り替え屋敷内に分割して隠されたディスクを集めると帰路に着こうと踵を返す。
が、すぐに足を止めた。
