第5章 Storm
一方神羅屋敷では、ヴィンセントが初めてルクレツィアに出会った場所に足を踏み入れていた。
初対面の時、赴任の挨拶を済ませるとルクレツィアはあからさまに動揺していた。
ヴィンセント・ヴァレンタイン。黒髪に赤い瞳。容姿はどこか父親に似ていた。今にして思えば、とヴィンセントはひとつため息を吐く。
屋敷を進むと、思い出すものが多過ぎて一つ一つの部屋に立ち止まりそうになるが、今はとにかくルクレツィアについて調べるため資料室へ向かう。
この屋敷はモンスターも生息しているため、銃を構えたまま歩みを進めていく。誰かの調べ物の跡がある。付近に積もる埃に不自然な濃淡がある。何人かが屋敷に足を踏み入れていたのだろう。ついあらゆる分析をしてしまうのはもはや癖だった。
ふいに、部屋の奥からマテリアが転がって来る。
ヴィンセントが足元に止まったそれを手に取ると、まばゆい光を放ち、気づけば背後にルクレツィアが立っていた。
「ヴィンセント……だよね?」
胸を詰まらせるような表情を浮かべるルクレツィアは当時とまるで変わらぬままの姿で彼に問いかける。
「私のこと、調べに来たの?」
彼女はヴィンセントに向かって歩き出す。
ヴィンセントは戸惑うように咄嗟に彼女を受け止めようと手を広げようとするが、ルクレツィアは速度を緩めず彼の体を通り抜けて行った。
振り返れば、まるで生身に見えていたルクレツィアはホログラムで出来ているのが見て取れた。
そして立ち止まった彼女のホログラムから放たれる冷静な声が部屋に響く。
「そう……オメガ。オメガが目覚めようとしているのね」
ルクレツィアはオメガについての知識を彼に与えるように語り出す。
以前シャルアから聞いたルクレツィアの論文の一節。
「その名はカオス。星の海への導き手。……これは、古代種のものと思しき遺跡にあった一文。終末の物語……」
気付けば拝啓にルクレツィアの祠が映し出される。そしてルクレツィアは終末の物語を解説した。
「オメガ……終わりを示す名をもつそれは、あたかも他の命と同じようにライフストリームから生まれる。ただし、星に存在するすべての命を使い……、そして、その命を終わりから始まりへと導くため、星の海へと飛び去っていく」