第4章 Asrun dream
慌てるリーブに頷き返し、エッジであった出来事を報告する。
「エンシェントマテリア……それが、オメガ制御の鍵。朱のロッソはそう言ったのですね?」
「あぁ」
ヴィンセントが頷くと、リーブはシャルアに訊ねる。
「わかりますか?」
「…… 星の淀み生まれし魂、汚れ除き清き流れ、終わり名を持つオメガへ導く、その名はカオス、星の海への導き手」
「それは?!」
「ルクレツィア博士の論文にあった一節だ。が……詳しい事は知らん。私の読んだものはただの断片だったのでな」
ヴィンセントはそれでもルクレツィアの綴った論文を聞けたことに少しの嬉しさを感じた。当時はイロモノ扱いを受けていたというそれが、今では重要な参考資料となっている。
ルクレツィアの偉大さを知り、しかしその研究内容であるカオスがなぜ自分の中にあるのかと思い始めると、やはり先程シャルアが言っていた研究成果という言葉が頭の中にぼんやりと存在感を示す。
ルクレツィアの事を調べる必要があるだろうというシャルアの意見を共有した頃、施設のアラートが鳴り響いた。
ディープグランウド側に本部の場所が割れたのだ。
襲撃を受け、ヴィンセントが応戦する。
WROの隊員も戦闘配置に着いていたが、ツヴィエートがいるせいでその侵入をなかなか阻めずにいた。
ヴィンセントが敵を殲滅しつつ各部屋を移動していると、シャルアと鉢合わせる。状況を聞くため近づくが、シャルアは突然彼に銃口を向けた。
しかしその銃口の先はゆっくりと彼の体の横へ移動する。
静観していると、銃口の先にステルスを解いた少女が姿を現した。
「よく分かりましたね」
「シェルク……だ……」
「WROに知り合いはいませんが?」
シェルクと呼ばれた少女は無表情のまま、しかしシャルアに目を合わせず俯いた。
シャルアが語りかける。探していたと。
彼女の探しものはシェルク——シャルアの妹だった。
シェルクが10年前にディープグランウドに攫われてしまってから、シャルアはずっと彼女を探していたらしいのだ。
しかしシェルクはシャルアの言葉を喜びはしなかった。
攫われてから身体も頭もかき回され、実験と調整の繰り返し、連日与えられた苦痛と恐怖。それが10年の中身だと教えた。
魔晄を浴びなければ生きていけない身体、肉体の成長は止まり、少女の見た目のまま中身は19歳だと嘆く。
