第1章 偶然か必然か
「でも、私も一応ファンですけど…」
そこの所、大丈夫なのだろうか。
自虐的に自分の事を指差して笑ってみたら、彼が眉を下げて少し困ったような顔をした。
「逃げてるのは、行き過ぎた追っかけとかしてくる子達だけだよ。そもそも君は他のファンと違って…」
「違って…?」
「…っ」
ブーブーブー…
この沈黙を破ったのは、私のポケットの中でバイブ音を鳴り響かせている携帯。
「出ていいよ?」
「あ、すみません…」
断りを入れてからポケットの中の携帯を取り出して見ると、オーナーからの着信だった。
彼に背を向けて通話ボタンを押して電話に出てみた。
「はい、もしもし」
『ごめん、ちゃん。もうお家着いちゃったよね』
その申し訳なさそうな姿勢に、電話口だけで何かあったということはわかった。
「いえ、まだDVD買い終わったところで…」
『俺から早上がりしていいって言っといてなんだけど、今から戻って来れたりしないかな?遅番の子一人休んじゃって、もう一人の子まだ入ってそんなに日が経ってないからさ…』
「今からですか?えっと…」
まだ彼との話も済んでいないのに、今すぐ戻ってもいいのだろうか。
その場の返事に困り、ちらりと後ろの彼に目をやると電話のやりとりで察してくれたのか、私に聞こえる程度の小声で「いいよ」と言ってくれた。
『やっぱり難しいよね?』
「あ、いえ、大丈夫です!すぐ戻ります!」
『本当にごめんね…』
「じゃあ、失礼します」
オーナーとの電話を切って、終わるまで待っていてくれた彼に頭を下げた。
「すみません。遅番の子が一人休んでしまって戻ってきて欲しいみたいで」
「そっか、じゃあ早く戻らないとだね。ここから道わかる?」
「はい、そこの大通りに出れば大丈夫です」
ここから見える大通りはよく出勤時に通っているから、そこにさえ出てしまえば後は大丈夫。