第1章 偶然か必然か
大学を卒業後、某企業に就職したものの、社内環境や人間関係が合わず一年足らずで退職してしまった。
しかし、地元に帰る気にもなれず、親に生活費は自分でどうにかすると頼み込んで、無理を言って都内に居させてもらっている。
その後、カフェでアルバイトから働き始め、四年目の今年、社員に昇格してから二年目の年になる。
社員になってからは、新人さんの教育担当や在庫の発注や管理などを任されるようになった。
社員は私とオーナーの二人。あとはアルバイト数名で回している個人経営の小さいお店だ。
だが、ありがたいことに口コミなどの評価が良く、土日は特にお客さんが途切れる事なく来店してくれる。
ここは悩んでいた職場環境も、人間関係も良好で文句の付け所がないくらい居心地がよく、とても働きやすい職場だからこそ、アルバイトの子達もすぐ辞めずに長く働いてくれたいる。
「ちゃん、そろそろ上がっていいよ」
倉庫で片付けをしてると、不意にオーナーからそう言われた。
「え、でも今日は通しの予定じゃ…」
「昨日も夜遅くまで新メニューの開発とか手伝ってくれたでしょ?もうランチタイムも抜けたし、この後遅番で二人も来てくれるから大丈夫だよ」
だから、ね。と、笑顔で促すオーナー。
確かに、平日のランチタイムを抜けてしまえば混み合うことも少ないけれども、お言葉に甘えてしまっていいのだろうか。
「それに、今日は大好きな彼のDVD買う日でしょ?」
「う…っ」
そう、それを楽しみに今日は通しでも楽勝だと意気込んでいたところはある。
今日は大好きな彼、内山昂輝が出ているイベントDVD発売日。
上がった後すぐに買いに行って、明日が公休だから帰ってから楽しもうと考えていたのだが、ここはオーナーが気を遣ってまで作ってくれた機会だし…。
「じゃあ、お言葉に甘えて上がらせていただきます」
「明日も公休だし、ゆっくりと楽しんで」
「は、はい」
元よりそのつもりでした。
さすが、オーナー。なんでもお見通しじゃないか。
「お疲れ様です。お先に失礼します」
「うん、お疲れ様。また明後日宜しくね」
「はい!」
事務所で勤怠を切り、さっさと着替えを済ませて向かう先はアニメグッズ専門店、アニメイト様。