第1章 偶然か必然か
彼を好きになったきっかけは、些細な出来事だった。
アニメに全く興味なかった私に、ヲタクの友達が絶対観てほしいと貸して来た一枚のアニメDVD。
何となく観てみたそのアニメの中で、物語の主人公でもないキャラクターに私は釘付けになっていた。
「どうしよう…、カッコいい…」
キャラクターもだが、その中の人の声や演技力にぐっと引き込まれた。
次の日、自分から続きのDVDを借りて全部観終わる頃には、すっかり声優である"内山昂輝"の一ファンになっていた。
すぐさま、ネットで彼について調べてみたら、自分と同い年で勝手ながら親近感が湧いた。
初めてのイベントは、私をこの世界に連れ込んだ友達と二人で参加。
列に並んで自分の番は今か今かと待っていると、遂にその時がやってきた。
「次の方、お進みくださいー!」
係の人の誘導に従って前に出ると、テーブルを挟んだ先に夢にまでみた彼が私を見下ろしていた。
間近で見る彼に、息をするのも忘れるくらい緊張したのを、今でもはっきりと覚えている。
「あ、あの、最近好きになりました…っ!声も演技も好きですっ!!これからも頑張ってくださいっ!!」
緊張がピークに達し、頭も真っ白で、この時の為に事前に考えていた会話ネタも簡単に吹き飛んでいた。
咄嗟に出たこれが今の私には精一杯の気持ちの伝え方。
自分でも声も手も震えてるのが分かるし、彼に見られてる緊張で頬に熱を持ってるのも分かる。
「…ありがとう」
彼は私を見て一瞬目を丸くさせたようにも見えたけど、直ぐにふわりと笑みを作り、一言だけそう言ってくれた。
こんなにも誰かを応援したいと思ったのも、
こんなにも誰かを好きになったのも、
今まで生きてきた中で、彼だけだと思う。
だから、イベント以外で彼と出会うなんて考えてもいなかった。
第1章 偶然か必然か