第2章 *二ノ章*
翌日、私は待ち合わせの時計塔の前でワクワクしながら待っていた。
だけど約束の時間を過ぎても音也は来ない。
もう既に約束の時間を1時間過ぎていた。
(あと少し、待ってみよう……)
そう自分に言い聞かせて時計に頻繁に目をやる。
「虹村夏海」
不意に後ろから聞こえたその声は音也のものとは違っていた。
聞き覚えのない……いや、聞いたことはあるが聞きなれない声。
振り向くとやや不機嫌そうな顔をした人が立っていた。
「君でしょ?虹村夏海」
「えっと……?」
「オトヤから頼まれてここに来たんだけど」
「おと君――一十木君からですか?」
『そうだ』と無言で頷く。
もしかすると、この人もアイドルかもしれない。
見た目は中性的で綺麗な顔立ちをしているし、透き通るような声も魅力的だ。
「彼は仕事が予定よりかなり遅れて、今日は来れないそうだよ。代わりにボクに君を案内してあげてほしいと頼まれた」
「……そうですか」
少し残念に思いながらも、自分に配慮してくれた事を嬉しく思う。
ふと、音也が代わりを頼んだという人に興味が湧く。
「えっと、お名前を伺っても……?」
「美風藍」
素っ気なく返されては話題が続かないのだが……
無視されなかっただけでも良しとしよう。
美風さんに案内してもらって、今日は勉強にしなくては……!
そんな気持ちで彼と仕事場に連れて行ってもらった。