第2章 *二ノ章*
仕事場に行くまでにも何度か話しかけてみたけど、イマイチ会話が続かない。
「えーっと、美風さん?」
「なに?」
「……仕事ってどんなことしてるんですか?」
「主に歌。それ以外にバラエティなどに出演」
この調子だ。
これでは会話が持たない。
美風さんは、不思議な雰囲気に包まれている。
美しく、何処か冷めた印象と同時に包むような優しささえも感じる。
矛盾にも程がある。
だが、それが事実なのだから余計に分からなくなる。
「……月、みたい」
ぼそりと呟いた言葉を美風さんは聞き逃さなかったらしい。
眉をひそめて、どういう意味かと訊ねてくる。
「あ、えと……美風さんの雰囲気って、月みたいだなぁって思って」
「ボクが月?」
「不思議で綺麗で何処か神秘的で、ちょっぴり冷たいのに温かい、矛盾した感じ」
自分でも矛盾しすぎているとは思う。
だけど美風さんは静かに私の話を聞いてくれていた。
むしろ興味深そうに『そうか』などと呟いて何か考えていた。
「君って結構面白い事を言うね」
「矛盾しすぎですよね。急に変なこと言ってごめんなさい」
「何で君が謝るの?ボクはただ思ったことを言っただけだし、そういうのを素直に表に出せるのはいいことだと思う」
美風さんはさも当然のようにそんな事を言う。
嘘でも気遣いでもなく、本音で……
それがちょっとだけ嬉しく感じた。