第1章 迷子。
【二階堂side】
記憶喪失の人に遭遇した場合の対処方法なんて、さすがに俺でもわからない。とりあえずは警察か?と思って、近くの交番まで"桜凪 零"と名乗った彼女を連れて行くコトにした。
ただの買い出しが、とんでもなく面倒くさいコトになった。でも、ここまで聞いておいて放っておくわけにもいかねーし、それよりも、もう少しだけ、その真紅の瞳をまだ見ていたかった。
だが、状況が状況だ...。お巡りさんにバトンタッチしてからさっさと帰ろう。
そんなコトを考えながら、隣を歩く彼女を見る。
白一色のシンプルなワンピースを着ているが、所々ひどく汚れている...。ワンピースから覗く華奢な手足、頬のあたりも少し汚れてるな...。
普通にしていて、こんなに汚れるもんか?
いったい、何をしたら...
記憶をなくしたコトと関係があるのか...?
ふいに、彼女がこちらを向いた。
『あの...、どこに行くんですか?』
「さっきも言ったろ?警察。お巡りさんとこだよ。捜索願とか出てるかもしれないし、保護もしてもらえるだろ。」
『けい...さつ...?、おま...わりさ、ん?』
どこか、きょとんとした表情だった。"警察"が何なのかわからないのか?記憶喪失だからか?そういうもんなのか?いろいろ思うところはあるけど、特に気にするのはやめた。
手続きや聞き取りはスムーズに進んでいた。担当してくれた人も良い人そうだ。最後、引き取り先がないから、と、施設に保護されることになったが、その時、零が一瞬見せた不安そうな表情が頭から離れず、「俺が預かります」と言ってしまった。
...事務所に相談もしないで、
何やってんだ、俺は。
外に出た時には、もうだいぶ暗くなっていた。