第1章 迷子。
【桜凪side】
訳がわからず、私はそのメガネ男子を見つめたまま固まってしまった。頭が真っ白になるって、こういうコトなんだなぁ...なんて、のんきなコトを考えながら。
「そんなに見つめられると、お兄さん照れちゃうなー。」
『え...、あ!ごめんなさい!そんなつもりじゃ...。』
別の意味でパニックになった...。
この人は何をしに来たのだろう。私は知らない人...だと思うんだけど、本当に知らない人なのか自信がない。また、思い出せないんじゃないか、と不安になる。
「何か困ってるみたいだったけど、探し物?」
『...ナンパ?』
「はぁ?」
あ、怒ったかな?あからさまに不機嫌そうな表情をされてしまった。
「別に困ってないならどーでもいいか。悪かったな。」
メガネ男子はヒラヒラと手を振り、歩き出した。
...あー、もういいや!!どうしたら良いかわかんないし、一か八か賭けてやるっ!!
『か...、帰り方がわからないのっ!!』
メガネ男子が、驚いたような呆れたような表情で振り向いた。
「え...、迷子?」
『...子供じゃないし。』
「えっと...、あれか。駅の場所ならーーー」
『そうじゃなくてっ!...帰る場所とか、どこから来たとか、覚えて...ないの。』
私はうつむき、2人の間に少しの沈黙をはさむ。
「...マジで言ってんの?」
『マジで言ってんの...。』
「それって、記憶喪失ってやつ...?」
メガネ男子は、頭をガシガシ掻きながら「んーー」っと唸っている。そりゃ困るよね。知らない奴から、いきなりそんなコト言われたらさ。私本人だって困ってるのに...。
暫くして、メガネ男子がジッと私を見た。
「なんか覚えてるコトないか?名前とかさ。」
『...零。
...あ。名前、"桜凪 零"だ。』
よかった、覚えている物があって...。
他にないか聞かれたけど、残念ながら名前以外は思い出せなかった。もう一度、荷物がないか確認したけど、何も手がかり的な物はなかった。