第10章 記憶の固執
「其れはこっちの台詞だ放浪者!」
「だったら来なきゃ良いじゃない。」
「俺は愛理の付き添いで来たンだよ!!」
「……は?愛理?」
漸く私に気付いたのだろう太宰は眼を見開き少し固まっていた。
まぁ気付かないのも無理はない。
中也の背後に居た為人数は把握出来ても顔迄は見えなかった筈だ。
「愛理、如何して此処に…」
『太宰、貴方に会いに来たのよ。』
「愛理っ!!」
周りの人達が口々に恋人か?等と話しているのは気にも留めず私の方に歩み寄ると其のまま抱き締めた。
「逢いたかったよ。」
『逢いに来れば良かったのに。貴方なら堂様ない事でしょ?』
「…そう云う訳にも行かないだろう。」
彼は其のまま私の首筋に顔を埋めるとまるでもう離すまいと云わんばかりに更に強く抱き締めた。
「ッてこった。闘う心算はねェ。まぁ如何してもって云うなら相手するが。」
「嗚呼、其のようだな。敦、解いて大丈夫だ。」
金髪眼鏡から云われた少年は戸惑い乍らも腕を元に戻した。
「ヘェ、手前があの人喰い虎か。是非一戦願いてェところだな。」
『中也?駄目でしょ?』
「へいへい。」
『えっと、敦君?だったっけ?本当に闘う心算は無いから大丈夫だよ。もし中也が暴れたら私が止めるから。』
「…分かりました。」
「で?ただ私に逢いに来ただけでは無いだろう?」
太宰は私から軀を離すとチラと中也の方を見る。
『私、中也と結婚することにした。」
「……は?」
『中也と結婚するの。あ、だからと云ってマフィアは辞めないけどね。今も半同棲みたいなものだし其れに「許さないよ。」……何故?』
「私以外となんて添い遂げさせないよ。」
『そもそも私達そんな関係じゃ無かったでしょ。』
「其れでも私は、ずっと、君を!『太宰。言葉にしなきゃ分かんない事って沢山有ると思うの。勿論行動が伴ってこそだけど先ずは言葉にしないと。じゃあもう行くね?』
そう云い残すと探偵社を出て外で中也を待つことにした。
恐らく太宰は追っては来ないだろう。
「心配すンな。彼奴を傷付ける様な事を俺はしねェ。手前は平和に生きてろ。」
すっかり呆けている太宰に其れだけ告げると俺は下で待って居るだろう愛理の元へと向かった。