第10章 記憶の固執
中也から急にあんな事を云われて少し酔いが覚めてしまった。
あんな顔初めて見た。
何時からだったんだろう。
もしかしたら太宰が居た時から?
其れならば、いや其れでなくとも気付かなかった私は最低だ。
「オイ!」
『ん?』
「何時からだの苦しめてたかもだの余計な事は考えンな。」
『あはは、御見通しって訳ね。』
「顔見てりゃすぐ分かる。大方酔いも覚めたんだろ?よし!今日はとことん飲むぞ!」
嗚呼、矢っ張り中也は優しいな。
結婚。考える迄も無いかも知れない、なんて思いながら其の日は宣言通り夜明け近く迄飲んでいた。
-次の日。
『とうとうやって参りました、中也さん。』
「何改まってンだ気色悪ィ。」
『此れぐらいの決心が無いと騙せないでしょうもん!羅生門!』
「手前徹夜明けか?」
『いえ、今日に備えて20時には眠りについておりました。』
「ババアかよ。」
あの日から太宰に会うのは初めてだ。
緊張なんてしない訳が無い。
とは云え本能には勝てず本当に20時には寝ていたのだけれど。
「で?如何やって彼奴と会う心算だ?」
『え……。如何しよう?』
「はァ!?手前ェ考えてなかったのかよ!!」
『考えてなかった。如何しよう。電話?いや、でも私から掛けた事無いや。え、如何しよう?』
「分かった、分かったから落ち着け!兎に角探偵社の近く迄行くぞ!」
『うっ、うん!』
そうして私達は探偵社の近く迄移動した。
…のだが移動中にもういっその事探偵社に乗り込んだら如何だと云う話になり、現在探偵社の入り口前。
「行くぞッ。」
『うん!』
中也が盛大に扉を蹴飛ばした音に奇襲だと思った探偵社員は此方へ目を向け戦闘準備を始める。
「たった二人か、舐められたものだな。」
「いや、此の人達強いよ。……闘えばの話だけど。」
金髪の眼鏡を掛けた人が油断しているのをこんな状況だと云うのに座ってラムネを飲んでいる糸目の人から注意するよう促される。
「俺らも随分と舐められたもンだなァ?」
「げっ、其の声は……矢っ張り。最悪。本当に最悪だ。」