第10章 記憶の固執
お互いのどちらかがご飯を作る気になれない時、もう片方に作って貰うという事を此処数年している。
故に家に気軽に行ったり来たりする仲だ。
だからと云って恋仲では無い。
所謂腐れ縁の幼馴染、みたいな関係。
「何故彼奴に付いて行かなかった?」
そう、あの日。
太宰は何時もの飄々とした顔を崩し、珍しく寂しげな表情を浮かべて「またね。」と云った。
心配した私が声をかける暇すら与えて貰えずその場を見ると彼は跡形も無く消えてしまっていた。
……その日からずっと。
『……急に如何したの。』
「あれだけ互いを必要としていたンだ、普通付いて行くし連れてくモンだろ。」
『とは云え恋仲でも無かったしね。勿論軀の関係も無いけど。其れと此れとは違うってだけじゃない?』
「ンな事迄聞いてねェッ!…たまたま同じ場所に居たから、ってな訳か。」
『そうだね。別にお互い執着しても無いし。其れに年月で云えば中也との方が長いしこうやって任務以外で一緒に居る事もそんなに無かったからね。』
「そんなモンか。」
うん、そんなものだ。
浮いた話はお互いしていないし武装探偵社に居ると知ったのもつい最近だ。
たまーに連絡は取るものの会う事も無い。
所詮その程度。
『其れに太宰は結婚に向いてないでしょ?』
「話飛躍しすぎじゃねェか?」
『えー、付き合うなら結婚も視野に入れるでしょ!学生じゃないんだから。』
「まァ其れもそうだな。」
『結婚するなら太宰より中也だよ。料理上手だし掃除も仕事も出来るし、何だかんだ優しいし。』
「お、おゥ。そうか?」
『ふふっ、嬉しそうな顔しちゃって。でも本心だよ。』
「……じゃあ結婚するか。」
『へ?……いや、中也良い人とか居ないの!?妥協しなくて良いんだよ!』
「愛理、手前より良い人なんか居ねェし妥協もしてねェ。」
『如何したの?酔い過ぎじゃない?』
「まだ酔う程飲んでねェよ。誤魔化すな。」
『わ、分かった。考えておく。』
「あァ。まァ別に今すぐとは云わねェ。一年後でも十年後でも構わねェから変に意識するな。」
『いや、しない方が無理じゃない?』
「手前はそんな繊細な奴じゃねェだろうが。」
『中也は私をどんな奴だと思ってるのよ。』