第5章 睡蓮
「おや、私は良くとも帽子置き場に見られるのは恥ずかしいのかな?」
『いっ、いいから一度出て行って下さい!!!』
私はそう叫ぶと部屋に入っていた太宰さんを無理矢理外に出し、扉を閉めて鍵を掛けた。
するとすぐ様扉の向こうから彼の声が聞こえてくる。
「厳重なのは良い事だけれど私の前では鍵なんて意味を持たないよ?」
『一応ですよ、一応!良いから中也さんの執務室で二人共待ってて下さい!』
「愛理性格が変わってるよ。余程動揺したのだろうね。」
と、捨て台詞を残し二人分の足音が遠ざかって行った。
物々と文句を言いながら着替え終わると中也さんの執務室へ直行した。
云いつけ通り二人共待ってくれていたようだ。
『で、中也さんは見たんですか?見てないんですか?』
「いやっ、あれはだな…『見たんですね?』お、おゥ。」
『真逆中也さん迄居るなんて思いもしませんでした。今すぐ忘れて下さい。』
「そうだよ。愛理のあんな姿を見て良いのは私だけなのだから。」
「いやいや、何で青鯖野郎は良いんだよ!!」
『太宰さんは見慣れてるからです。其れに見られても何とも思いませんし。』
「何だよ、其れ。」
中也さんはそう云うと不貞腐れてそっぽを向いてしまった。
被害に遭ったのは此方なのに何だか悪い事をしている気分になる。
が、私は間違った事は言っていない。
『そもそも太宰さんが何時も何時も着替え中に入って来るのが悪いんですよ!?』
「だって狙って来てるんだもの。」
『何で私なんですか!他に綺麗な人居るでしょう!?』
「私はね、他でも無い愛理が見たいんだよ。誰を見ても君の顔が過ぎってしまってねぇ。此処まではっきり云えば分かるだろう?」
『分かりますけど……。』
背を向けて此の二人の会話を聞いていた中也に色んな感情が襲った。
先ずは愛理が居るのに他の女とも遊んでいる太宰への怒り。
其れでも付き合い続ける愛理への憤り。
近くに居るのに、自分の方が太宰より大事にしてやれるのに自分のものにならない悔しさ。
そして何より今の関係が崩れる事を恐れて何もして来なかった自分への呆れ。