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在りし日の歌【文スト】【短編集】

第21章 侵食(彼目線)






『中原さんッ………!』






男「あの男“中原”って云うんだ。そうだ、僕の名前も呼んでよ。」

『貴方の名前なんて知りませんっ!』

男「如何して?婚約者の名前も覚えてないの?」



少し早めに着いた俺は中の様子を伺っていた。
先ず外傷が無い事を確かめると囚われている姿を堪能する。
健気に俺の名を呼ぶ愛理への興奮が抑えられず思わず手で口元を抑えた。



男「ねぇ。僕の名前思い出してくれた?」

『だから私は貴方と初対面だし婚約者でも何にも無いの!!赤の他人よ!!』



温厚な彼女が珍しく啖呵を切った。
すると俺の部下が突然手を振り上げる。
巫山戯ンなよ?
愛理に手を出すなってあれほど云っただろうが。



潜めていた殺気を出し二人の前へ行くと其れにいち早く気付いた部下は手を止めた。



『あ、あのぅ…………「愛理!!!」中原さん!!?』

中「愛理!!無事か!?」

『はい!』

男「嗚呼、貴方が中原さん……。残念ながら彼女はもう私のもの。」

中「巫山戯るな!愛理は………………俺のだ!!」



重力操作で程々に叩きのめした部下を放って、急いで彼女の元へ駆け寄り其の華奢な手足を自由にしてやる。



『中原さんッ!中原さんッ…!』



泣きながらしがみ付いてくる姿は何とも煽情的だ。
震える身体を壊れ物の様にそっと包み込んだ俺は、怖い目に合わせる事になってしまったが計画に間違いは無かったと再認識していた。



中「怪我、ねェか?」

『はい。本当にありがとうございます。』

中「嗚呼。」



既に手中に収まった愛理に俺は笑う。



中「じゃあ帰るか。このまま此処に居ても仕方ねェし。」

『ストーカーはいいんでしょうか?事情聴取とか……。』

中「無能な警察に任せる事なんかねェ。後は俺と俺の部下がきっちりやる。」

『そう、ですか。』

中「俺の仕事の話もしねェとな……。」



そうだ。
手前に手を上げようとした奴なンざ口も聞けなくしてやる。
愛理を傷付けるのも癒すのも俺だけで佳いンだ。
抱きかかえた腕の中で縮こまっている彼女と共に暗いヨコハマへと姿を消した。





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