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在りし日の歌【文スト】【短編集】

第21章 侵食(彼目線)




自分の事だから自分で探す、と云う何ともいじらしい愛理。
一緒に部屋中に或る盗聴器の幾つかを外してみせる。



















『今日は本当にありがとうございました。』


少し話をした後、あまり長居をする訳にも行かないので今日は帰る、と告げる。
すると少し寂しそうな顔をしながらも玄関まで見送ってくれた。


「阿保か。未だ犯人捕まえてねェだろ。」

『でも、其処までして頂く訳には…。』

「頼ってくれるンじゃなかったのか?」


未だ遠慮をする愛理。
俺達の距離はそんなに離れてンのか?
未だ俺を遠ざけようとすンのか?


———————いや、思慮深い彼女のことだ。
俺のことを考えて気を使ってるンだろう。
可愛い奴だ。
手前の為だったら何だってしてやるってのに。


「じゃア礼にまた飯作ってくれ。其れが依頼料だ!な?其れなら納得いくだろ?」

『そんな!ご飯がお礼なんて割りに合いません!』

「飯は身体の基礎になるモンだ。不味くったって食わなきゃ生きていけねェ。だが美味しいに越した事は無いだろ?………愛理の味気に入ったンだ。また食わして貰う為のただの口実だ。」


本当にただの口実だ。
愛理の事になると余裕の無い俺は此れからの愛理との生活を思い浮かべてつい顔が赤くなる。
其れを隠す為に帽子を下げた俺を見て、天使は微笑んだ。


『ふふっ、料理で良ければ何時でもどうぞ。食べたいものを云ってくれれば作りますんで。』

「嗚呼。此れ俺のプライベェトの連絡先だ。何か或ったらすぐに連絡しろ。余計な気なンて使うンじゃねェぞ?いいな?」

『はい。』


計画を完璧に遂行する為にも気を使うな、と念を押した俺は心苦しい思いをしながらも彼女の香りが充満した部屋を出る。
何時もの癖でイヤフォンを耳に付けると風鈴はふんふんと音色を奏でていた。


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