第21章 侵食(彼目線)
か弱い愛理を誘導し、高鳴る鼓動を落ち着かせて訳を尋ねると何の疑いも無しに初対面で或る筈の俺に全てを話してくれた。
『警察にも行ったんですが今は別の事件で手一杯らしくきちんと話し合って解決しなさいって厄介払いされました。』
だろうな。
最近この地域は抗争が勃発してるからな。
まァ仕向けてるのは俺だけどよ。
愛理が頼るのは警察なンかじゃねェ。
俺だけだろ?
「チッ。何やってンだよ。家族とか他に頼れる奴は?」
『家族は既に他界していて兄妹も居ません。友達にもこんな事なかなか云えなくっ、て………………グスッ。すっ、すみません!』
人に話した事より一人で張っていた気が緩んだのか泣きじゃくる彼女に気の利いた言葉一つ云えず昂揚としてしまう。
すると俺が困惑していると捉えたのであろう愛理は礼を云い帰ろうとする。
『助けて下さりありがとうございました。もう大丈夫ですので。では。』
「おいっ!!!」
そんな事させてたまるか。
此の日の為にどれだけ準備してきたと思ってるンだ。
愛理の手を取り引き止めた俺は怒りと焦りが混ざり、思わず彼女の小さな手を握り潰してしまう処だった。
「其れの何処が大丈夫なンだよ!!もっと人を頼れよ!手前の命守れンのは手前しか居ねェンだぞ!?」
『屹度その内飽きますよ。』
「其れまで我慢する心算かよ。………手前ェ名前は?」
最も其れらしい事を吐き、数ヶ月も前から知っている愛しい彼女の名前を聞く。
『宮野愛理です。』
「愛理……。俺は中原中也だ。よしっ!此れで他人じゃねェな!手前料理作れるか?」
『はい。』
「酒は?」
『弱いので少しなら…。』
戸惑う愛理に畳み掛ける様に得意で或る料理を作れるかと尋ね、すぐに顔が赤くなってしまい弱いとされる酒を飲めるかと尋ねた。
「じゃア行くか!」
『え?』
此れで着実に手中に落ちてくれる筈だ。