第21章 侵食(彼目線)
忙しい毎日の合間を縫って俺は度々イヤフォン越しに癒しを求める。
其れから聴こえるのは大好きなクラシックやロックでは無く、風鈴の様に可憐な声。
『……まただ。』と溜息を吐いた彼女の声は何時もより少し疲れている。
写真が足りなかったのか?
恋文でもっと愛を伝えるべきだったのか?
明日は期待に応えられるようにするからな。
任務を終えた俺は送迎の車を断り、すっかり日も暮れて暗くなってしまった道を一人歩く。
すると前から歩いてくる愛しい人を見つける。
今日は何時もより遅いな…。
あの使えない上司がまた愛理に仕事を押し付けているのか。
そろそろ彼奴も始末しねェとな。
彼女が黒服に怯えながら此方に向かって歩いてくるのを確認した俺は敢えて避けずにぶつかった。
当然そんな事など予期してなかった彼女は尻餅をつく。
何が起こったのか分からないであろう彼女は驚いた表情で俺の眼を見た。
嗚呼、やっとその眼に俺を映してくれたな。
「ほら、立てるか?」
親切を装い差し伸べた手におずおずと白く華奢な手を重ねた。
『あっ、ありがとうございます……。』
律儀に礼を云う愛理。
何時もとは違い直接耳に響く可愛らしい声に今すぐ連れ去りたくなる気持ちを抑える。
『あのっ、すみませんでした!急いでた「何があった?」………え?』
「後ろチラチラ見ながら走ってただろ。追われてンのか?」
『あの………………はい。』
「とりあえず彼処で座って話すか。歩けるか?」
『えっ!?あ、歩けます、けど…。』
「じゃア行くぞ。」