第20章 侵食
中原さんと出逢ってから二週間。
変わった事と云えば彼と毎日電話やメェルのやり取りをしているぐらいだ。
何時も私のことを心配してくれているようで、忙しいとされる仕事の合間を縫って連絡をする。
前に一度、忙しいのなら無理をして連絡をしなくても大丈夫だ。と理解出来る女を装い伝えたのだが、俺がしたいからしてるだけだ。と見事に心臓を射抜かれた。
あいも変わらず毎日届く手紙や写真を見なくなっていた私は屹度浮かれていたのだろう。
「なぁに、君。最近気持ち悪いんだけど。」
頬杖をつきながら気怠げに書類を捲る彼は目の前に座る男には目もくれず告げた。
「あ?何がだよ。」
「妙に機嫌佳いじゃない。」
「……そうか?」
まるで自覚の無いらしい男の返答に漸く顔を上げたのは最年少幹部で或る太宰治だった。
太「真逆気付いてなかったとか云う心算?」
中「変わンねェだろ。」
太「少なくとも仕事に支障は出てるよ。」
中「雑だって云いてェのか?」
太「その逆だよ。君にしては丁寧過ぎるんだ。闘い方にしろ書類にしろね。」
中「けっ。じゃあ佳いだろ。」
浮かれている自分を小っ恥ずかしく思った中原は悪態をつき書類へ目を移そうとした時だった。
衣嚢に入れていた携帯電話が震える。
太「おや?プライベェトの電話が鳴るなんて珍しいね。」
中「………なンで分かるンだよ。————————もしもし?……………愛理か。ん?………ッ!?すぐ行く!!待ってろ!!」
血相を変えて脇目も振らずに部屋を出て行こうとした中原の腕を掴み引き止めた。
中「何すンだよ!!」
太「其れは此方の台詞でしょ。仕事放ったらかして何処に行く心算?」
中「緊急事態なンだ、そんな事云ってられるか!分かったら手ェ離せ!」
お得意の口の上手さで丸め込んでやろうとした太宰だったが、あまりの気迫に此れは不味いと悟り掴んでいた手を緩める。
だが心なしか中原の口角が上がって見えた気がした。