第20章 侵食
彼の掌に乗っていたものは小さな黒い機械。
今まで見たことは無いが此れが盗聴器と呼ばれる類だろう。
「盗聴器、だな。部屋に入られた形跡とかあったか?」
『いえ……。』
「そうか。此の様子じゃ多分他にも有る。部屋探しても大丈夫か?」
『はい。』
「怖かったら此処に居ろ。俺が探してやる。」
『私のことですから……私も探します。』
「おゥ。その域だ!」
それから私たちは箪笥の中や家具の隙間まで隈なく探し出てきたのは計六個の盗聴器。
風呂場やトイレから見つけた時は恐怖と驚きで声も出なかった。
『今日は本当にありがとうございました。』
「阿保か。未だ犯人捕まえてねェだろ。」
『でも、其処までして頂く訳には…。』
玄関に立つ彼の足元を見ながら云い澱む。
「頼ってくれるンじゃなかったのか?」
ハッとして彼を見る。
が、流石に此れ以上頼る訳にはいかないと思っている私の心情を察したのか彼はあ!と声を上げ提案をした。
「じゃア礼にまた飯作ってくれ。其れが依頼料だ!な?其れなら納得いくだろ?」
『そんな!ご飯がお礼なんて割りに合いません!』
「飯は身体の基礎になるモンだ。不味くったって食わなきゃ生きていけねェ。だが美味しいに越した事は無いだろ?………愛理の味気に入ったンだ。また食わして貰う為のただの口実だ。」
指で帽子をクイッと下げ顔を隠そうとしたのだろうが赤い耳は隠せていない。
頼り甲斐の或る彼の意外な一面を見てしまった私の心臓が五月蝿いのは云うまでもない。
『ふふっ、料理で良ければ何時でもどうぞ。食べたいものを云ってくれれば作りますんで。』
「嗚呼。此れ俺のプライベェトの連絡先だ。何か或ったらすぐに連絡しろ。余計な気なンて使うンじゃねェぞ?いいな?」
『はい。』
笑顔で受け取り彼を見送った。
部屋中に残る彼の香りに包まれながら久しぶりに良い一日だった、と鼻唄を歌った。