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在りし日の歌【文スト】【短編集】

第2章 夜警




「えぇっ!?中也、私は〜!?」

「手前なんか野垂れ死んでろ!!」


中也さんは私の手を引っ張って車まで連れて行くと親切にも扉を開けて助手席に乗せてくれた。


『太宰さんは本当にいいんですか?』

「放っといたってあのヤローなら勝手に帰るだろうよ。……やっぱり際どいな。此れでも膝に掛けてろ。」


運転席に座った彼の視線を辿ると座ったことにより尚更下着が見えそうになっていた。
御言葉に甘えて『有難う御座います。』と外套を受け取り膝に掛ける。
態度は大きいし口は悪いけどとっても優しい人なんだな、と思わず笑みが溢れてしまった。


「何笑ってンだ?」

『いえ、中也さんも優しいんだなぁって。』

「彼奴は誰にでもそうだ。」

『私は優しくされることに慣れていないのかも知れません。』

「はァ?」

『彼が優しくして下さるのも然り、何か目的が有っての事でしょう。』


二人と合流してから中也は、太宰が吐き気がしそうな程甘ったるい眼を愛理に向けていたことを思い出す。
唯其れは本人に全く伝わっていないのだが…。
恋路の、よりにもよって太宰の手助け等したくないので有耶無耶に応える。


「まぁ、有ることには有るだろうな……。(下心が。)」

『矢張りそう思いますよね。だから中也さんが純粋な優しさをくれるのが嬉しくて。』

「手前をマフィアに連れて行く為に、とは思わねェのか?」

『其処まで計算高いとは思えません。』


若干貶された気がしたが自分の善意を嬉しいと云ってくれる彼女の微笑みで其れを良しとした。
が、此のままでは太宰の二の舞に成ると気付き焦ると決意を固めて話を続ける。


「企みなら俺にも有る。」


微笑んでいた表情が一瞬悲しげな顔に変わったがすぐに真顔になる。


『お伺いしても…?』

「嗚呼。次の休日、俺と付き合っちゃあくれねェか?」

『え?』


今日何度目であろうか、愛理のきょとんとした顔を信号待ちの間眺める。
恐らくマフィア絡みの企みかと思ったのであろう。
信号が青に変わり先程告げられた愛理の家へと向かうべく車を発進させた。



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