第17章 拾い者と落し者 其の壱
—————次の瞬間、彼女は驚くべき行動をとった。
『ごめんなさい。』
太宰と敦の前まで来た彼女は太宰の手を取らず深々と頭を下げたのであった。
『探偵社の皆さんと過ごすのはとても楽しかったです。毎日賑やかで、たわいのない事で笑って。その上こんな私を置いて下さって、親身に話を聞いてくれて……。』
敦「そ、それなら……」
『それでも私は中也さんの側に居たい。手が赤く染まろうと闇に引きずり込まれようと。まだ全部を思い出したわけではないけれど中也さんに哀しい思いはさせたくない。それだけは絶対に揺るがないんです。』
太「本当にそれで良いのかい?君は間違いなく後悔するよ。」
『はい。私の居場所は中也さんに拾われた時点で決まって居ますから。』
太「私も拾ってお世話してたんだけど?………真逆好意に気付いてない事は無いよね?」
あはは、と苦笑いを浮かべた彼女はこう告げた。
『真逆思い合ってたことに気付いてない事は無いですよね?』
そう云いきり太宰に背を向けた彼女の眼には涙が滲んでいた。
目ざとく其れを見逃さなかった太宰は愛理の肩を掴み無理やり身体を自分の方へ向けると接吻をした。
『———ッ!?なっ、何して「諦めないよ。」』
太「必ず君を連れ戻してみせる。」
放心状態の愛理の唇にもう一度接吻を落とすと同じく放心していた少年に帰るよ、とだけ云い残しスタスタと歩いていってしまった。
敦「僕もいつまでも待ってますから!」
何時もの笑顔でそう云ってくれた敦が慌てて彼を追い掛けるのを見送った愛理はポケットの中をゴソゴソと探る。
あった。と呟いた瞬間、盗聴器を床に捨て踏み付けた。
中「手前ェ、何易々とあのクソ野郎にキスされてンだよ。」
近くに居る芥川が恐れる程の殺気を纏っている中也を見てクスッと笑った彼女は彼の肩に手を置くと、ほんの少しだけ背伸びをして彼に接吻をした。
『やっと持ち主の所に帰れた。もう落し物になるのは御免だよ。…龍君も来てくれてありがとう。』
芥「貴様が居ないと話相手が居らぬからな。』
『ふふっ、樋口ちゃんが居るじゃん。』
芥「彼奴は喋り過ぎだ。」