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在りし日の歌【文スト】【短編集】

第17章 拾い者と落し者 其の壱




太「それは反則だよ。」


その刹那、太宰さんに腕を引っ張られてよろけた私を彼が抱き止める。


中「ハッ、そンなの知らねェよ。」

太「実は愛理ちゃんはね、一度記憶を取り戻す機会が或ったんだ。でもその時彼女は断った。」

中「何が云いたい。」

太「昔の“大事で或った”記憶を思い出さなくても佳いと思えるほど今が大切だと云うことだよ。ね、愛理ちゃん?」


突然話を振られた私は何も云えなかった。
最初こそ思い出したいと躍起になっていたものの探偵社の皆と、太宰さんと過ごす内にこのまま此処に居たいと強く思うようになってしまった。
それこそ記憶が戻るのが怖いと思ってしまう程に。


『太宰さんの云う通りです。』

中「………ッ。」


まただ。
中原さんのあの哀しそうな顔。
あんな顔見たくないのに私がそうさせている。


『私はこのまま記憶が戻らなくても佳いと思っていました。でも中也さんのその顔を見ると思い出したくて仕方ないんです!!……貴方が、私の大切な人なんでしょう?』

中「愛理…。嗚呼、手前は俺専属の補佐であり恋人でも或る。愛理が居ねェと俺は何にも出来ねェよ……。」


私は太宰さんの拘束を振りほどき、酷く弱々しい中也さんの元へ駆け寄ると再び抱き着き頬に口付けをした。


『私を二度も拾ってくれてありがとう。』

中「愛理ッ、手前ェ思い出したのか!?」

『うん。少しだけだけど。』


良かった、と何度も呟く中也さんは強く私を抱き締め返した。
これで元の生活に戻ることが出来ると安堵した次の瞬間、悪魔のような声が聞こえてきた。


太「ところで愛理ちゃん、君は事件の重要参考人として武装探偵社が身柄を預かっている事を忘れてはいないかい?」

『あっ……。』

敦「そ、そう云えば…」

中「ンなの知らねェよ。其方で勝手にやってろ。」

太「それにもう愛理ちゃんは私のものなんだけど?」


そう云いながらニヒルな笑みを浮かべ人差し指で胸元をトントンと叩く。
思わず私は数時間前の出来事を思い出し身体が強張った。
それを中也さんは見逃さなかった。



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