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在りし日の歌【文スト】【短編集】

第17章 拾い者と落し者 其の壱




とりあえず二日分の食材を籠に入れ終えた私はお酒コーナーへと足を運んだ。


『良いワイン或った?』

「………え?」

『あれ?日本酒……?』


如何して太宰さんがワインを見ていると決めつけたのか。
現に彼が手にしているのは日本酒だ。
その上滅多に外さない敬語を外した。
チラリと太宰さんを一瞥すると彼もまた同じ事を考えている様だった。


『すみません。私の方は終わったので……そろそろ会計しますか?』

「うん……そうだね。」


結局その後一言も話さずに家に着いた。
キッチンお借りします、とだけ告げ冷蔵庫に食材を詰め込んだあと料理に取り掛かる。


「ご飯出来るまで先にシャワー浴びてもいいかい?」

『勿論です。』


先刻までの沈黙を打ち消す様にありがとう、と笑った彼が浴室へ向かうと暫くしてシャワーの水音が聞こえてきた。










『出来ました!』

「おおっ!!美しい女性の手作りと云うのは佳いねぇ。では、早速!いただきます!」


余程お腹が空いていたのか美味しい、と何度も云い乍ら本当に美味しそうに食べてくれる。


『ふふっ、そんなに急いで食べなくてもまだおかわり有りますよ。』

「ッ!!?」

『え?如何かしましたか?』

「いや、笑った顔に見惚れていただけだよ。今まで笑顔なんて見せなかったからね。」

『表情が乏しいと云われていた気がします…。それでも前は良く笑っていたような……。』


私の言葉に真面目な顔をした彼は速度を落としたものの其れでも箸を止める気は無いみたいだ。


「此処半年の記憶だけが無いと云っていたね。」

『はい。』

「他に何か覚えている事は或るかい?どんな些細な事でも曖昧な事でも構わない。」


考えている間黙々とハンバーグを頬張る太宰さんを見つめる。


『前にもこんな事があった気がします。』

「こんな事、と云うのは?」

『こうやって御飯を作って、誰かと一緒に食べて、その人は美味しそうに食べてくれて。……とても幸せでした。』

「そう、なんだね。早くその人のところに帰りたいかい?」

『えぇ。待ってくれて居れば、の話ですけど。』

「………………彼は屹度待っていると思うよ。」




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