第16章 交差
頑なに拒否する彼女を見るとふと抱き締めたままで居る事に気付き入り慌てて身体を離した。
『あっ!!つか、すまねェ……。』
「いっ、いえ……。」
『とっ、ところでよォ、何でそンなに彼奴の事嫌がるンだ?いや、気持ちは良く分かるが。』
「それは…………太宰先生がこの状況を見たら絶対に揶揄ってきそうなので。』
『まぁ、そりゃあ一理或るな……。じゃあ如何したもンかなぁ。』
太宰がアテに出来ねェとすれば。
あれこれ考えていると彼女があのー、と控えめに声を掛けて来た。
「私、このままで大丈夫ですよ?人の噂も七十五日って云いますし!その前に誤解が解けるかも知れません『嫌だ。』………え?」
『俺が嫌だっつってンだよ。』
「如何して先生が…?」
明らかに混乱している彼女を見て決意を固めた。
『ンなの決まってンだろ、手前の事が好きなンだよ。』
「え?……え?」
『勿論恋愛感情で、だ。教師とか生徒とか関係ねェ。気付いたら愛理の事を好きになってた。———返事、聞かせて貰えねェか?』
彼女の方へ歩み寄ると近距離に耐えられないのか後退るが其処にはお決まりの壁。
逃げ場が無い事に気付けば目をぎゅっと瞑り俯いた。
愛理の頬に手を当て無理やり此方を向かせればヤケになり答えてくれた。
「私もっ、中原先生の事好きでッ————んっ。」
待ち望んでいた答えを最後まで聞く事もなく衝動的に口を塞いだ。
見た目よりも弾力が或り甘い唇を一回で離すには惜しく、其の行為を何度も何度も繰り返す。
「ちょっ……んっ……せっ……んせ。先生!」
『嗚呼?なンだ?』
慣れてないところを見ると大凡初めてだろう。
思わず口角が上がるのが自分でも分かる。
「先生は、本当に私で良いんですか?」
『“で良い”じゃなくて“が良い”だ。愛理、俺と付き合ってくれるな?』
「もっ、勿論ですっ!!」
『よしっ!じゃあもう何も心配要らねェな?気を付けて帰れよ。』
え!?と驚いているたった今恋仲になったばかりの可愛い彼女に挨拶をした俺は、明日の事を思い浮かべ乍らひたすら仕事に取り組んだ。