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在りし日の歌【文スト】【短編集】

第16章 交差




結果、彼女が話してくれた内容によれば俺は大きな誤解をしていた。


元々芥川と宮野は幼馴染。


中学、所謂思春期を迎える頃から人目を気にして学校ではあまり話さないようにしていたが、最近と或る事を切っ掛けに元通りに校内でも話すようになった。
そして放課後には二人の好物の甘味の食べ歩きやスーパーに買い物に行く事も。


更にややこしい事に芥川には妹が居て料理が苦手な宮野は其の妹に習っていたらしい。
帰るのが夜遅くなった時には芥川が寮まで送るかそのまま妹の部屋に泊まる。
其の光景を偶々見た奴等が其れを繋ぎ合わせて一つの結論に行き着いた。


—芥川と宮野が恋仲だ。と云う噂に。


誰かが揶揄ったり尋ねたりしてくれれば否定が出来るものの何分相手が悪ィ。
あの芥川の事だ。
自分の愛する彼女が不愉快な目に遭っていると知ればすぐにでも潰しに来るだろう。
誰しもが暗黙の了解で分かっていたが故、そんな事は起きなかったのだ。


だが自分から噂は間違っていると否定するのも可笑しな話。
誰にも相談出来ず、如何する事も出来ず悩み抜いていたところで俺がトドメを刺した。と腕の中に居る彼女は話してくれた。
とりあえずは安心だ。


『聞きてェ事が幾つかあンだけどよォ…。』

「どうぞ。」

『“と或る切っ掛け”って何なンだ?』

「其れは……」


今はもう泣き止んだものの偶にしゃくりながら鼻を啜っている宮野はあからさまに云い淀んだ。
此処で焦っても何にもならねェ。
先ずは“教師”としての役割を果たすか。


『云いたくない事は無理に云わなくて云いっつったろ?とりあえずは噂が間違ってるっつー噂を広めなきゃならねェ。……………一寸太宰呼んでくるから待ってろ。癪だがこう云うのは彼奴の方が上手い。』

「いいです。」

『はァ?良くねェだろ。』

「太宰先生に頼むくらいなら此のままで大丈夫です。」

『あのなぁ………彼奴が嫌いな気持ちは良ーーーく分かるがそう云う訳にも行かねェ。』

「其れでも、嫌、です。」





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