第16章 交差
—次の日、放課後。
「中原先生!良かったぁ、来てくれて。」
『俺が此処に来ない日なんか無ェって云ったのは手前だろ?』
「だって来るの遅かったんですもん。」
頬を膨らませながら不貞腐れる彼女を見て矢ッ張り可愛いな、と改めて思う。
実を云うとつい先刻迄喫煙所に来るか如何か迷っていたのだ。
面と向かって話をしたいと云う一方で此のまま何も知らない振りをして逃げたいとも思っていた。
『悪ィ、一寸立て込んでたからな。』
「いえ、私が勝手に先生の至福の時間を邪魔しに来ているだけですから。」
馬鹿云え。宮野が居ないなら意味ねェンだよ。
『其れも今日で終わらせるか?』
「…………え?」
『出来たんだろ、彼氏。噂聞いたぞ。付き合い始めの頃から余計な心配掛けるもンじゃねェ。ただの教師と生徒、とは云えよく思わねェ奴も居るからな。』
顔を見れなかった俺は空に吐き出した煙を追いながら云い切った。
嗚呼、自分で云っておきながら何で傷ついてンだよ。
けど此れはお互いの為でも或る。
彼女が芥川と上手くいくように。
俺が彼女の事を諦められるように。
「なッ…………んで。先生迄………。」
震える声に驚いた俺は彼女が放つ言葉の意味が分からなかった。
『あ?芥川と恋仲なンだろ?』
「違うッ!!!!」
堰を切ったようにぼろぼろと泣き出す彼女に気付けば自然と手が伸びていた。
抱き寄せた身体は自分と比べてとても華奢に思える。
彼女は最初こそ離れようとしていたものの諦めたらしくおずおずと背中に手を回してくれた。
暫くそのままで居ると落ち着いたらしい彼女と目が合う。
潤んだ瞳、赤く染まった頬、何より此の体勢。
拙い。色々と持ってくれ!!俺!!
『中原先生、話を……聞いてくれますか?』
「当たりめェーだろ。ゆっくりで良い、自分の話したい事だけで良い。だから話してくれ。」