第16章 交差
次に彼女と会ったのはそれから三日後だった。
今日も書類やら謎の差し入れやらで散らかっている隣の机を見た俺は仕事を手伝わされる事を悟り、気分転換に喫煙所へと足を運んだ。
「あ、先生こんにちは。」
すると其処には先客が居た。
俺は定位置で或る吸い殻入れの前に立ち壁にもたれかかると、彼女は少し距離を空けて隣に立った。
『おう。また探検か?』
「ふふっ、もう終わりましたよー。先生はまた休憩ですか?」
『嗚呼、何処かの包帯野郎のせいで仕事が増えそうだからな。』
「それって太宰先生の事ですか?」
『そうだが、もしかして…。』
「はい。担任です。」
嗚呼、矢ッ張り。
嫌な予感が的中した。
彼奴は何処まで俺の邪魔をすれば気が済むンだ。
『そうか。そりゃア運が悪かったな。』
「でも太宰先生人気ですから。先生のクラスになれた私は運が良いみたいですよ?」
『其の云い方だと手前はそうは思ってねェみたいだな。』
「はい、私は太宰先生には興味無いですから。」
バッサリと云い切った彼女に安堵の笑みを浮かべる。
其処でふと疑問に思った。
『“には”って事は他に気になる奴居ンのか?』
返ってくる言葉をドキドキしながら待つ。
「私は中原先生派ですから。」
『………。派ってなンだよ、派って。』
「先生知らないんですか?此の学校じゃ大抵の女子が太宰先生派か中原先生派に割れるんですよ!後は国木田先生や江戸川先生が良いって人も居ますけど。」
『へー。そんなの或ったンだな。』
太宰がモテるのは知っていたが俺まで人気が或るとは知らなかった。
いや、待てよ?
太宰の野郎は毎日の様に告白されたり差し入れを貰ったりするのに俺には全くと云っていい程無い。
本当に此奴が云ってる事は合ってるのか?
『俺、モテねェぞ?』
「いやいや御冗談を。みんな近寄り難いから話しかけないだけですよ。」
『なンだそりゃ。』
「尊いんですって。遠目で見てるだけで良いとか話しかけるなんて畏れ多いって小耳に挟みますね。」
『ますます分からねェ。好きなら話しかけりゃ良いだろ。』
「私もそう思います。」