第2章 意地悪なバレンタイン
「うわぁ…
頭に解りやすく雪積もってるやんか…(汗)
道すごい混んでるし…
スマホ楽屋に忘れて来ちゃってて
連絡も出来へんしさぁ…
ほんまにごめんな…?」
そう言って
差し出された黒い傘から伸びた手は
この30分で私の頭に積もった雪を
優しく降りはらって
寒さで赤くかじかんた手を掴むと
「うわ…めっちゃ冷たい…(汗)
とりあえず早くどっか温かいとこ入ろ?」
なんて
私の手を引き歩き出す…
大倉さんに手を引かれるまま
近くにあった暖房の効いた
暖かそうなカフェに入り
暖かいコーヒーを飲みつつ
向かい合って座っている今
緊張感が半端ない…(汗)
小さくかたかたと震える手を握りしめ
「あ…あの…時間は大丈夫なんですか…?」
そう聞いた私に大倉さんは
ふわふわの優しい笑顔を向けて
「うん…出てくる前にマネージャーに
ちょっと遅れるかもって言うといたし…
大丈夫やろ(笑)」
なんて笑いかける…
今年こそは渡すと決めた
チョコは鞄に入ってる
でも…
大倉さんの笑顔を前にすると
このチョコを渡してしまったら
もうこんな素敵な笑顔を間近で見ることも
出来なくなるのかなぁ…
なんて弱気な時分が
ひょっこり顔を出しそうになる…
それでももう…
逃げてばかり
泣いてばかりは
嫌だから
「あの…今日は…これ…」
そう言って勇気を振り絞り
鞄に手を入れた瞬間
大倉さんの顔から突然笑顔が消えて
私の後ろを見つめたまま
悲しそうに顔を歪めた…