第10章 馬鹿者が消えた世界線で…
寮部屋には、一つも私物が残って無かったから
きっともう帰って来ることは無いのだと思っていた。
でも、そっか…。私物、残してたんだね…。
僅かな希望と、燐音さんの痕跡が残っていたことが本当に嬉しくて、また涙が溢れてきた。
「失礼します、椎名いますか……………」
「なんやHiMERUはん、急に黙りこくって…………」
「あ………」
カランカラン、と軽やかな入口のベルの音とは裏腹に
重たい空気が流れた。
「椎名…女性を泣かすとはいただけませんね…」
「最低やわ」
「ち、違うっす!!! 誤解っす~!!!!!」
取り敢えず必死に誤解を解いて、こはくくんもHiMERUさんも私の両隣のカウンター席に座った。
「そういえば、こはくちゃんは何を持ってるんです? 何だか見覚えが……」
「せやろ? これや! モ*ポリーや!!」
「何で!!? 嫌な思い出しか無いんすけど!!!???」
嫌な思い出、については、スカウト『ハニービー』のストーリーで参照出来ます、とHiMERUさんに教えて貰った。
「きっと、聖子さんもここに居るでしょうから丁度良いと思ったのですよ。桜河が練習したい、と言っていたもので」
「練習…?」
「あのアホンダラが帰って来よった時に勝負して完膚なきまでに叩き潰してやるんや!! ぐうの音も出ぇへん程にな!!!」
「こういったゲームは天城の得意分野ですからね。向こうのフィールドで戦い、勝利する。HiMERUも良い考えだと思いまして」
「成程~。えらいっすね、こはくちゃんは♪」
「何悠長な事言ってんねん!! おどれが一番練習せなアカンやろが!!!」
「えぇ~!!」
「…ふふっ」
そんなやり取りが微笑ましくて。
みんな、燐音さんが帰って来るって疑わなくて。
とても嬉しくなる。
「…安心して良いのですよ聖子さん。あの男がこのまま大人しくしているとは思いませんし…。それに、このHiMERUが属するユニットが、このまま終わるなんてあり得ないのですよ」
「せやで聖子はん。わしもまだあのアホンダラを一発も殴れてへんしな。一発入れてやるまで、許さへん。絶対探し出したる!!! せやから待っとき、聖子はん」