第9章 最終章 晴れの帰り道
それから、月日は流れた。光里はほぼ毎日欠かさずに圭祐の病室へ足を運んでいる。
「・・・よし。」
ドアの前で立ち止まり、笑顔を作る。
「和泉君、おはよう!今日はお花を持ってきたよ。綺麗でしょ?」
光里は圭祐に話しかける。
「ねぇ、和泉君、今日が何の日かわかる?」
光里は問いかけると、少し暗くなってしまったトーンを誤魔化すように明るい声で告げた。
「今日はね、私・・・20歳になったの。誕生日だよ。祝ってくれる?」
“そうなんですか、おめでとうございます!”そんな声は聴こえてこない。
だが、光里はなにかが聞こえているかのように無理やり会話を進めた。
「もう、家であえなくなっちゃうね、残念だなぁ。」
病院では一度も泣いたことがない。だが、泣きそうだった。
入院してから4ヶ月たった。
光里の20歳の誕生日。祝って欲しかった、恋人として。
友達としてでもいい。家の中で、今日で最後だね、って話しながら最後の食事をするのだって、
こんな形より何倍も良い。
ここへきて毎日欠かさずしている事がある。
ふふ、と哀しげに笑ってから光里は言った。
「好きだよ。」
毎日、お見舞いに来た日は必ず言っている。
なんだかこの言葉は魔法のような効力を持っている気がしてならない。
それに、聴いてないなら言っても許されるよね、と光里は思っている。
(きれーな寝顔。)
「圭祐くーん、起きて。もう、20だよ。11月だよ。」
それでも、目覚めることはない。
もしかしたら、一生目覚めないのかもなんて思う時もある。
それでも、光里は言う。
「和泉君、好きだよ。」
過去の記憶の君じゃ物足りない。
もっといろんな君が見たいと願いを込めて精一杯言うんだ。
目覚めてくれるまで。
「また、明日。」