第9章 最終章 晴れの帰り道
ガラララララ
光里は圭祐が入院している部屋のドアを開ける。
「失礼します」
面会禁止状態が終わり、お見舞いに来られるようになった、と聞いたのは昨日の事。
直ぐにでも来たかったのだが昨日はバイトの終了が面会時間に間に合わず、断念した。
前に病院へ来た時からすでに4日が経っていた。
1、2日で面会禁止は解けるだろうと当初言っていたが、思いの外症状が重く4日かかってしまった。
症状が重いこと、今は他の部屋があまり空いていないことも相まってそこまで広くはないものの1人部屋だ。
ベッドの近くにあった椅子に腰掛ける。
ベッドに横たわる圭祐は眠っていて、一度も起きていない。
(衰弱した感じではないな。良かった、、、。)
「あ、あの、和泉君、、。」
少し悩んだが、話しかける事にした。
聞いていないことはわかっているが。
「こんにちは、光里です。」
返事の返ってこないまま言葉を続ける。
「ごめんね。会いたくて、、、来ちゃった。」
それ以降喋ることはなく、じっと圭祐を見つめる。
うなされることもなく静かに、ただ静かに眠っている。
わかっていたことなのに。
答えの返ってこない会話が、切ない。寂しかった。
それでも、光里はそこにいた。
目覚めた時、1番側にいたい。
いつか、圭祐は溜め込むな、と言った。
大丈夫じゃないなら、頼れと。
「早く、目ぇ覚ましてよ。」
「・・・・・・」
かつての、圭祐の声が蘇る。
『いつでも大丈夫なわけないじゃないですか。』
「和泉君・・・」
「・・・・・」
「私、今大丈夫じゃないよ。」
「・・・・・・」
『僕、どこにも行きませんから。』
「ねぇ、和泉君。」
『此処にいますから。』
「”ここ”にいてよ。」
過去の圭祐の声が思い出される。
いつだって優しい。
いつだって気遣ってくれる。
いつだって愛おしい。
「また、来るね。 ばいばい。」
別れの挨拶を告げて部屋を出る。
病院を出るまでは、泣かなかった。