第8章 緊急呼び出し
時は過ぎ、8月下旬。
あれから1ヶ月が経っていた。
光里はいつもと変わらない日々を過ごしていた。
いつも通り大学へいき、いつも通りバイトへ行き、そして、圭祐も来ないーー
「ただいまー。」
暑い日の午後、大学から帰ってきた光里はパタパタと手で扇ぎながらドアを開けた。
「わん、わんっ!」
「ただいま、太郎。」
太郎を見ていると癒され、自然に目元が和らぐ。
圭祐と出会うきっかけだったから、たまに辛くなるが。
毎日髪飾りをつけて大学へ行ったり、バイトへ行ったりしていた。
そうすればなんだか会えるような気がして。
「失恋を1ヶ月も引きずってるとか、バカみたい。」
そうは思うものの、やっぱり好きで、メッセージカードに書かれた「大好きです」が頭から離れなかった。
これからずっと会えないかもしれないのに、ずっと引きずっていくのか。
それは何度も自問自答したのに答えが未だに出ない。
いつか新しく恋をして、そうすればきっといい思い出としてとっておける。
そうでなくても、いつかは吹っ切れて、忘れられる筈だ。
髪飾りを毎日しているようじゃ、当分は無理かもしれないが、それでもいい。
もう少しだけでも、想っていたい。
最近は、いつか「良い思い出」になるまでは辛いかもしれないが頑張ろうと、前向きにその時を待ち望んでいる。
あれから1ヶ月。もう1ヶ月も圭祐に会っていない。
「今、何してるかな。」
たまにそう思う。今だって、圭祐が家でお昼ご飯を食べている所や、洗濯物を畳んでいる所を想像して、なにしているかな、と考えている。
prrr. prrr.
(あ、スマホ鳴ってる。)
ディスプレイには、「多田君」と表示されている。
(多田くん?なにかあったのかな?)
「はい。光里です。」
「あ、的羽さん?もしもし、多田です。あの、圭祐がっ、今、総合病院なんです。忙しいですか?来てください!」
取り乱しているのか謎の説明だったが、『圭祐がっ』『総合病院なんです。』『来てください』この3言だけが馬鹿みたいに頭の中を巡って、
気がついたら家を飛び出していた。