第9章 I am lucky
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「…そっか、じゃあ大変だったんだね」
緑谷はため息混じりに食べかけのカツ丼を見つめる。
自然と話はオメガ性の事になって、轟は未知の内容をなるべく覚えておこうと耳に神経を尖らせた。
『うん…薬効きにくい体質みたいで…
入学式に間に合って発情期(ヒート)を避けるように治療したんだー、
入学式出たかったし』
「そうなんだ」
『でも、デクくんって
アルファ並みの強個性だよね…親がどっちかアルファ?』
「いや、ベータとオメガなんだ」
『へぇ!めずらしいね』
くるみの言う通り、ベータとオメガの夫婦は珍しい。国全体の0.1%未満だと言われているベータとオメガの夫婦…。
(実在してんだな…)
轟はそばを啜りながらそう思った。
今まで自分のそばに存在していなかった様々なモノが次々と現実に形をなしていく。
轟焦凍は、幼稚園〜中学までアルファの専用の
エスカレーター式私立に通っていた。
親も親族も兄弟もアルファで、オメガと出逢ったのも緑谷とくるみが初めてだ。
突然現実身を帯びる卓上の知識に、どれほどまでに自分が無知だったかを痛感する。