第9章 I am lucky
ごった返す食堂の中でも、彼女の声はよく耳に通った。
『轟くん!デクくん!』
体育祭の翌々日、食券を片手に列に並ぶ俺たちの元にやってきたくるみは緑谷の後ろに並ぶと、ホッとした表情を見せた。
『今日友達が部活の集会あるから1人だったんだー。
一緒に食べていいかな?』
「え?あ…!是非!」
慣れない女子との会話に戸惑う緑谷だったが、麗日と話すよりは幾分落ち着いている。
というのも、オメガ同士はフェロモンが影響し合わないので、本来であれば同性と話すのとさして変わらないのだ。
3人で席につくと、トンカツが2つ、蕎麦がひとつ机の上に並ぶ。
「まさか2人ともトンカツとはね」
『ね、デクくんとは靴の色も同じだし、なんか勝手に親近感湧いちゃうなー』
くるみが指差す足元には、確かに形は違えど赤いスニーカー、靴紐の色まで黒でまるで…
『お揃いみたい♪』
ニコッと笑うくるみに、デクも笑い返す。
不思議とそこにイヤラシサはなく、ただ健全な友好関係に見える2人に轟は安堵した。