第8章 I am a girl
このまま身を任してしまいたいような欲情に襲われたが、この後すぐに切島との対戦がある。
(今、フェロモンに当てられんのは、良くねぇな)
「とにかく、俺以外応援してんじゃねぇ!クソオメガが!」
それだけ言い残して爆豪は体を離すと、トーナメント会場に向かって歩いていった。
『あの!爆豪くん…!』
「んあ゛?」
後から投げかけられた声に振り返ると、くるみは両手で握りこぶしを作り、上に高く突き上げ
『がんばってね!』
と声をかけた。
爆豪は何も返事せずにまた前を向くと、そのままトーナメントの中に消えていってしまう。
くるみはその後ろ姿を見送ってから、控え室1の扉を開けた。
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「くるみ…」
椅子から立ち上がり、くるみに歩み寄る、顔を見ただけで落ち着くなんて、どんな魔法を使ったらそうなるんだろうな。
『大丈夫…?すごい戦いだったね、怪我とかし…て…』
心配するくるみの体を抱きしめて、細い肩に頭を乗せた。
「……火を……使っちまった」
『うん…』
くるみは、俺の頭を撫でながら
懺悔に耳を傾けてくれる。
「あの一瞬だけ…全てを忘れた…
お母さんのことも、クソ親父のことも…」
『うん…』
「それが良かったのか…わからねぇ…
でも、やっぱり、わからねぇうちは使いたくねぇ」
『轟くんには、轟くんのペースがあるから…
無理しなくて良いと思うよ…?
月並みなことしか、言えなくてごめんね』
申し訳なさそうな声が耳先で聞こえる。
俺は肩から持ち上げた頭をくるみの額にのせた。
額と額が重なり合うその体制に、高鳴る自身の鼓動を内から感じる。
そう言えば、最近…
『…体調が、少し悪ぃかもしんねぇ』