第7章 I am having fun
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泥というものは、なかなか取れないもので
灰色とピンクのぬいぐるみは、水の中でゴシゴシと擦られながらやっとだいぶ泥を落としたところだった。
医務室で借りた石鹸は半分ほど使い切ってしまったが
その甲斐あって、ぬいぐるみはもう少しで洗い終わりそうだ。
蛇口を止めて、ぎゅうーと押さえつけると水がきれた。
『よーし、綺麗になったねぇ』
ぬいぐるみに話しかけると、ふわり石鹸の匂いが香る。
「あれ?くるみちゃん?」
名前を呼ばれて顔をそちらに向けると、医務室から出て来た上鳴電気だった。
『上鳴くん!どうしたの?怪我したの?』
大丈夫?と顔を覗き込んで心配してくれるくるみ。
近づくと石鹸に混じって香るオメガのフェロモンに上鳴は鼓動を上げた。
「いや…大丈夫……
ってか、多分次爆豪の出番だぞ!見なくていいのか?」
『え!?うそ、そんなに時間経ってた!?』
くるみは慌てると『あぁっ』と頭を抱えた。
『こっから普通科の客席まで5分はかかっちゃう!』
「なら、うちのクラスの席で見ればいいじゃん
席余ってるし、ヒーロー科の客席この上だから」
『でも…わたし…』
「いーのいーの!
きゃわいい女の子は大歓迎だから」
上鳴は戸惑うくるみの手を掴んで引っ張ると階段を駆け上りヒーロー科の客席に連れて来た。
くるみはオズオズ上鳴に体を隠してA組の客席に座る。
皆、前のトーナメントに釘付けで、くるみの存在に気がつかないようだ。