第7章 I am having fun
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『轟くん!』
前方から声がして顔を上げるとくるみが小走りにやってきた。
「くるみ……」
轟は、思わず駆け寄り、その小さな体を引き寄せると
縋り付くように抱きしる。
くるみは身を硬くして驚いているようだが、そんな事を気にする余裕は、今の彼にはない。
『轟くん…どうかした?大丈夫?』
「……あぁ、イラついてただけで…大丈夫だ」
そっか、と安堵したようにため息を吐くくるみ。
轟はくるみの発する甘い香りにさそわれるように、鼻先を首筋に擦り付けた。
「悪りぃ…
少しこのまま抱いてていいか」
『いいけど…次の試合の人来ちゃう…』
くるみがいい終わらぬうちに、くるみの後方から塩崎茨が歩いてきた…
だが、塩崎は廊下で抱き合う二人を特に気にすることなく広い通路の、2人の横を過ぎ去ってトーナメント場に向かう。
しばらく抱きついていた轟だったが、唐突に体を離すと大きく息を吐いた。
「…少し落ち着いた」
『うん…大丈夫になったなら良かった』
くるみは微笑んだが、轟と目が合うと、流石に少し照れたのか赤面して俯く。
「くるみ…その……」
『あ…この子、洗わなきゃだから!
ま、またね!
二回戦…デクくんとの対戦だよね…頑張ってね!』
一気にまくし立てると、くるみは轟の言いかけた言葉も聞かず走って逃げて行った。
広い通路に一人残された轟は、
まだ体に残るくるみの香りに、胸元を手で抑えつける
(この熱は…くるみがオメガだからってだけなのか…?
こんな…苦しいものなのか……
誰か、教えてくれ…)
轟の願いは、誰に聞き届けられるわけでもなく…
壁にもたれるようにへたり込むと、項垂れて頭を抱えた。