第31章 I am nothing
「あの……、普通科の女の子…
確か、爆豪のこと好きだって言ってた子だよな…。
あの二人、付き合ってたんじゃねぇのか?」
切島がオズオズと問いかけると、緑谷は悔しげに顔を歪め、俯いた。
「かっちゃんを好きだったって云うのも、全部嘘だったってこと…だよ……」
「爆豪さんは、騙されていたんですね…」
同情する八百万に、轟が一歩踏み出して声を荒らげた。
「違ぇ…!くるみは騙されて…操られてんだ!
アイツが…くるみがあんな事するはずがねぇ…!」
「轟くん!!!」
その声より、もっと大きな声で叫んだのは緑谷だった。
肩を震わせ、その震えている両手で顔を覆う。
「もう、認めよう……縫井さんはヴィランだ……
僕達…この目で見たじゃないか……」
「そん…な……緑谷…!お前はくるみのことが信じられねぇのかよ!
アイツはヴィランになるような奴じゃねぇ…!」
「落ち着け。轟」
轟を窘めたのは、ちょうど部屋に入ってきた担任である相澤。
ヒゲを剃り、いつものボサボサの髪をまとめ、スーツを着込んだその姿に、生徒さえも一瞬誰だかわからなかったほど。
「あの女生徒、調べはついたか?」
相澤は席に座ると、プレゼントマイクに問いかける。
「あぁ…。内通者はあの女子リスナーで、ほぼほぼ間違いねぇよ」
プレゼントマイクがトントン、と指で指し示した卓上の資料。
緑谷達にも見えるように、相澤は長机に広げ、両手をついて見下ろした。