第31章 I am nothing
「ならねぇ……」
絞り出した声に、くるみは『ん?』と首を傾げた。
「約束…した…
お前を…守るって…そのためのヒーローに……!!」
胸元を抑え、涙をにじませる男を足元に、
くるみは首を上に向けた。
『まだ言ってんの?』
ーーーガシャン!
「はぇ?!」
トガは突然舞い上がった自分のスカートに、驚いて目を見開く。
一瞬の出来事だった……
爆豪はコンクリートの床に押し倒され、その首の横に二本のナイフを突き立てた、くるみが覆いかぶさっている。
そのナイフは、トガの腰ポケットに忍ばせていたはずのもので、
くるみは一瞬でそれを奪い、爆豪に突き立てたのだ
『ならないなら、死んでいいよ』
つぅ……と首筋を垂れる一滴の血の粒が
ナイフを伝って床にこぼれた。
「オイ……」
声をかけたのはトゥワイスだったが、荼毘がそれを止める。
爆豪は、何も抵抗する気がないのか
紅い瞳をくるみに向けたまま、大の字で床に倒れていた
見つめ合う二人
時間は永遠に流れないような、緊迫した空気が漂う
だが、
『………つまんないの』
そんな静寂を割ってくるみは2本のナイフを床に投げ捨て、立ち上がった
「殺さねぇのかよ……」
去っていくくるみに、爆豪は体を起こして声をかける
『……殺されてほしそうな人は、殺してもつまんないし』
が、くるみは一度も爆豪の方を見ることもせず、
死柄木を連れて、部屋から出て行った。
「び…びっくりしました」
「何という殺気……」
「俺らまで殺されるかと思ったぜ…/思わなかったけどな」
仲間であるはずのヴィラン達までがそう呟く中
爆豪は、無気力に、また床に倒れると静かに目を閉じた。
ーーー『ヒーローとしてのオールマイトを殺した』
知っている、自覚している……
俺が、強ければ…
俺が、もっと……
いや、俺が……居なければ……
オールマイトを終わらせることなんか無かったのに
ーーー『ヴィランになろうよ、爆豪くん』
いっそ殺された方が、良かった
あいつの手で殺されるなら、それも悪くねぇ
あぁ………なんだよコレ……死にてぇな……